中国、軍事演習重ねて台湾中間線を「無実化」 注目される米国の対応
台湾海峡に設けられた「中間線」はこれまで70年近く、地域の平和維持に貢献してきた。写真は16日、中国福建省に近い、台湾・ 馬祖列島の南竿島沖を航行する台湾の沿岸警備艇(2022年 ロイター/Ann Wang)
台湾海峡に設けられた「中間線」はこれまで70年近く、地域の平和維持に貢献してきた。しかし、近代化された中国海軍が勢力誇示の動きを強めるとともに、中間線の存在する意味は薄れる一方となっている。
中間線は、中国と台湾の敵対意識が最高潮に達した1954年、米国のある将官が設定したとされる。中国政府は正式にこれを認めたことはないものの、人民解放軍は一応尊重する姿勢を見せていた。
だが、今の状況に目を向ければ、台湾側は自分たちの艦艇よりずっと大きな中国の軍艦が恒常的に中間線を越えてくる事態に備えなければならなくなっている。中国海軍のこうした行動は、3週間前のペロシ米下院議長による台湾訪問に反発した政府の抗議姿勢の一環とみられる。
台湾政府の安全保障計画に詳しいある高官は「中国側は圧力を高め、最終的にわれわれが中間線を放棄するのを望んでいる。彼らは、中間線放棄を既成事実化したいのだ」と述べた。
また、複数の高官は、中間線が提供している安全保障上のバッファーという考え方を台湾が捨ててしまうのは「不可能だ」と力説する。
呉釗燮・外交部長は今月の会見で、現状の変更は許容できないと主張。「われわれは同志国と手を携え、中間線維持に万全を期して台湾海峡の平和と安定を守る必要がある」と訴えた。
警戒強める台湾
先の台湾政府高官は、中国軍が12海里の台湾領海に侵入すれば軍事的対応をしなければならないが、それ以外の場合は台湾の軍ないし沿岸警備隊に、より強力に行動する権限を直ちに与えるつもりはないと説明した。
蔡英文総統はこれまで、台湾は挑発も対立をエスカレートさせることもしないと繰り返している。
一方、台湾は中国軍の中間線超えを阻止するのに十分な国際的支援を得られるのか、あるいは台湾の友好国が中間線維持を手助けしてくれるのかには、疑問の余地がある。
米国や他の西側の艦艇は台湾海峡を通航し、ここが海洋法で定められた国際海峡である点を強調しているとはいえ、法的な根拠がない中間線を厳密に守らせようとしているわけではない。
台湾海峡の最も狭い場所では、中間線から台湾領海までの距離は約40キロ。台湾側は、領海のすぐ近くで中国海軍が影響力を定着させれば、台湾軍が極度の緊張を強いられるとともに、中国による海上封鎖や台湾侵攻がずっと容易になってしまう、と警戒感を抱く。
最終的に中間線の存在がうやむやになれば、米国が長らく中国近海、いわゆる第1列島線に沿って築いてきた軍事的優位も脅かされ、中国の太平洋への戦力投射能力を高めかねない。