最新記事

昆虫

欧州からアフリカに数千キロを移動する蛾、風がふいてもまっすぐ移動していた

2022年8月25日(木)17時55分
松岡由希子

小型無線送信機を装着して、飛行経路を追跡した...... (C)Christian Ziegler / Max Planck Institute of Animal Behavior

<欧州とアフリカへと4000キロ以上を移動する蛾のヨーロッパメンガタスズメの飛行移動を追跡すると、風の状態や地形に応じて軌道を修正し、直線的な飛行経路を維持していた......>

周期的に規則正しく生息地を移動する「渡り」の習性を持つ昆虫は多種多様に存在し、ときには数千キロもの距離を移動する。これらの昆虫は優れたナビゲーション能力を持ち、風の吹くまま移動するのではなく、好条件を選んで移動できることがわかっているが、移動中の風の変化にどのように対応しているのかはこれまで解明されていない。

秋に欧州から南へと移動、春に戻ってくる

独マックス・プランク動物行動研究所(MPIAB)らの研究チームは、超小型追跡装置を用いてチョウ目ススメガ科のヨーロッパメンガタスズメの飛行移動を追跡することに成功した。2022年8月11日に学術雑誌「サイエンス」で発表された研究論文によると、ヨーロッパメンガタスズメは風の状態や地形に応じて軌道を修正し、直線的な飛行経路を維持していたという。

背面に髑髏のような模様を持つことで知られるヨーロッパメンガタスズメは欧州やアフリカに生息し、アルプス山脈以北で冬を過ごすことはできない。成虫は5~6月の春に欧州に現れ、次の世代の成虫は8~10月の秋に地中海、アフリカ北部あるいはサハラ以南へ向かうと考えられている。

Acherontia_lachesis_MHNT_Female_Nîlgîri_(Tamil_Nadu)_Dorsal.jpg

写真はクロメンガタスズメ wikimedia

様々な風の状態に対応し、最長で4時間約90キロを移動

研究チームはヨーロッパメンガタスズメ14匹に重さ0.3グラム未満の小型無線送信機を装着。夜間に移動飛行するヨーロッパメンガタスズメを追って受信アンテナを搭載したセスナ機が飛行し、5~15分ごとに正確な位置を検出した。

その結果、ヨーロッパメンガタスズメは目的地に向かって一直線に、直線的な飛行経路を維持し、最長で4時間にわたり約90キロを移動するものもいた。また、様々な風の状態に対応し、追い風では風下を飛行する一方、向かい風や横風では地面近くまで低く飛行し、軌道を調整したり、飛行を制御しやすいように速度を上げる行動がみられた。

夜行性の昆虫の移動飛行が追跡されたのは初めて

研究チームは、このような追跡結果をふまえ、「ヨーロッパメンガタスズメには高度な体内コンパスが備わっているのではないか」と考察している。

夜行性の昆虫の移動飛行がこれほど長時間で詳細に追跡されたのは今回が初めてだ。昆虫が鳥に匹敵するほど優れたナビゲーション能力を持ち、風の状態に対応して直線的な飛行経路を維持することを示した点でも、重要な発見といえる。今後は、ヨーロッパメンガタスズメがどのようなメカニズムで移動しているかについて、さらなる解明がすすめられる見込みだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中