最新記事

ウクライナ

親ロ派住民を戦場に狩り出し使い捨てにするロシア──遂に主力産業の鉱山労働者も徴用

Russia Forcibly Conscripts Over 400 Mine Workers for Ukraine War: Governor

2022年8月22日(月)17時42分
トーマス・キカ

ロシアのために死んだ58人を葬る自称「ルハンスク人民共和国」の兵士たち(7月12日、ルハンスク) Alexander Ermochenko-REUTERS

<「ロシアはわざわざ死傷者を数えたりしない。ほとんどが支配した領土の住民だからだ」と、ルハンスク州のセルヒイ・カイダイ知事が非難する。親ロ派だろうと、その扱いは変わらない>

ウクライナ侵攻が続く中、ロシア軍は歩兵部隊の兵員を補充するために労働者を徴兵し始めた、と地元メディアが伝えている。

ウクライナ東部ドンバス地域のルハンスク州で約430人の鉱山労働者がロシア軍の歩兵部隊に強制徴用されたと、同州のセルヒイ・カイダイ知事は21日にテレグラムの投稿で明かした。

「親ロシア派が自称する『ルハンスク人民共和国』 寄りのマスメディアは住民に、この事実を誇りに思うべきだと説いている」と、カイダイは書いた。「こうしたメディアの報道によれば、偉大な愛国戦争の時代と同じように、女性や年金生活者は前線に行った男性に代わって畑や工場や鉱山で働いている。女性たちは故郷に残り、極めて困難な仕事も見事に遂行している......」。そして、かつてドンバス地方を代表する石炭採掘企業で働いていた鉱夫430人も動員された。

ウクライナ国営報道機関ウクルインフォルムによると、労働者はかつてこの地域で有数の鉱山事業主であったドブジャンスカ町のドブジャンスカ・カピタルナ鉱山会社から徴用されたという。

ルハンスク地方は7月初めに完全にロシアの支配下に入り、「ルハンスク人民共和国」と呼ばれるようになった。そして8月に入るとロシア軍が民間人の徴兵を開始したと報じられた。カイダイは、徴兵の必要性が非常に大きくなったため、地域経済の要である鉱山労働者までが徴用されるようになったとも述べた。

多すぎるロシア軍死傷者

「ロシア側は死傷者をわざわざ数えたりしない。ほとんどが支配した領土の住民だからだ」と、カイダイは8月4日のテレグラムへの投稿で書いた。「ロシアは将来、彼らを必要とするわけではない」

「『ルハンスク人民共和国』に親ロ派住民がウクライナからの「独立」を宣言した8年前から、その住民はロシアの国家予算の負担になってきた。今、彼らはこの財政負担を取り返そうとしている。2014年から占領されている地域では、動員できる者は全員動員されている......いまや地域の経済にとってかけがえのない鉱夫たちまでもが連れ去られている」

ロシア軍は今回の戦争で膨大な数の死傷者を出している。米国防総省のコリン・カールは8月初め、ロシア軍の死傷者数は、開戦後6カ月弱で最大8万人に達していると推定した。アフガニスタンでの約20年間の戦争における米軍の死者数は2500人未満、負傷者数は2万1000人未満だったことからすると、ロシア軍の損失は桁外れだ。

ウクライナ侵攻が長引く中、ロシア軍の兵士の確保はどこであっても厳しい状態だ。キエフ・インディペンデント紙は8月14日、ウクライナ防衛省情報局の情報として、ウクライナのある地域では、ロシアの戦車大隊が180人の兵員を必要としていたのに、30人しか動員できなかった、とツイートで伝えた。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中