最新記事

中台関係

それでも中国は「脅し」しかできない...どうしても台湾侵攻に踏み切れない理由

Will China Invade Taiwan?

2022年8月16日(火)18時32分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)

220823p38_CTI_02v2.jpg

台湾周辺の海上での演習の模様を見守る中国軍兵士(8月5日) LIN JIANーXINHUA/AFLO

地政学的リスクという要因もある。最たるものが、アメリカとの全面戦争の可能性だ。

中国の軍事研究者の一部は、台湾侵攻によって圧倒的決意を示し、アジア太平洋地域からアメリカを追い出せると信じて疑わない。確かに、アメリカの参戦意欲や台湾防衛能力には疑問がある。一方で中国政府内部に、世界最大の軍事大国相手に屈辱的な敗北を喫すること、あるいは核の炎に包まれて世界が終焉する結末を望む者はいない。

アメリカについてはともかく、台湾に侵攻すれば、中国は平和的大国という自らの主張を覆すことになる。同時に、台湾と強い絆を結ぶ日本との関係も崩壊するだろう。

中国が台湾を支配しても、少なくとも最初のうちは、新疆ウイグル自治区などのように隔絶するのは不可能なはずだ。ネットを遮断しても、台湾のテクノロジー度は高い。侵攻や占領の実態を捉えた画像や動画を送り出して、中国の評判に打撃を与えるだろう。

侵攻失敗すれば中国に体制の危機が

台湾侵攻は中国の景気後退にもつながりかねない。中国南部の経済は、台湾のサプライヤーや資本と密接に絡み合っている。戦争になれば、それも損なわれる。世界最大の半導体製造受託企業、台湾積体電路製造(TSMC)などのIT企業が侵攻の際に製造現場を破壊する「焦土作戦」が提案されているし、人材は台湾から逃げ出すだろう。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧米は経済的影響力を行使した。中国への大幅な経済制裁は世界経済にはるかに大きなダメージをもたらすという違いはあっても、これも中国政府には懸念材料だ。

最後にして、おそらく最も強力な要因は政治的リスクだ。台湾侵攻が大規模な抗議活動や一般市民の怒りを招き、中国の広大な支配システムを圧倒する結果になる事態はいくつか想定できる。その1つが、侵攻が失敗した場合だ。

台湾との統一は公正かつ不可避で、軍事的勝利は容易だという考えを、中国は国内で売り込んできた。中国国民の多くは、その宣伝文句を固く信じている。だからこそ、失敗のリスクは増幅する。

ナショナリズムや自己過信、不安や愚かさは世界情勢を動かす大きな力だ。だが少なくとも現時点では、中国の台湾侵攻に伴う巨大なリスクとともに、強気に出れば侵攻不要で台湾を屈服させられるという想定が、中台戦争の確率を引き下げている。

From Foreign Policy Magazine

20241224issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月24日号(12月17日発売)は「アサド政権崩壊」特集。アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

CFPBが米大手3行提訴、送金アプリ詐欺で対応怠る

ワールド

トランプ氏、TikTokの米事業継続を「少しの間」

ワールド

ガザ北部の病院、イスラエル軍による退去命令実行は「

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 5
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 6
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 7
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 8
    「オメガ3脂肪酸」と「葉物野菜」で腸内環境を改善..…
  • 9
    「スニーカー時代」にハイヒールを擁護するのは「オ…
  • 10
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 5
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 8
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 9
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 10
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中