それでも中国は「脅し」しかできない...どうしても台湾侵攻に踏み切れない理由
Will China Invade Taiwan?
地政学的リスクという要因もある。最たるものが、アメリカとの全面戦争の可能性だ。
中国の軍事研究者の一部は、台湾侵攻によって圧倒的決意を示し、アジア太平洋地域からアメリカを追い出せると信じて疑わない。確かに、アメリカの参戦意欲や台湾防衛能力には疑問がある。一方で中国政府内部に、世界最大の軍事大国相手に屈辱的な敗北を喫すること、あるいは核の炎に包まれて世界が終焉する結末を望む者はいない。
アメリカについてはともかく、台湾に侵攻すれば、中国は平和的大国という自らの主張を覆すことになる。同時に、台湾と強い絆を結ぶ日本との関係も崩壊するだろう。
中国が台湾を支配しても、少なくとも最初のうちは、新疆ウイグル自治区などのように隔絶するのは不可能なはずだ。ネットを遮断しても、台湾のテクノロジー度は高い。侵攻や占領の実態を捉えた画像や動画を送り出して、中国の評判に打撃を与えるだろう。
侵攻失敗すれば中国に体制の危機が
台湾侵攻は中国の景気後退にもつながりかねない。中国南部の経済は、台湾のサプライヤーや資本と密接に絡み合っている。戦争になれば、それも損なわれる。世界最大の半導体製造受託企業、台湾積体電路製造(TSMC)などのIT企業が侵攻の際に製造現場を破壊する「焦土作戦」が提案されているし、人材は台湾から逃げ出すだろう。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧米は経済的影響力を行使した。中国への大幅な経済制裁は世界経済にはるかに大きなダメージをもたらすという違いはあっても、これも中国政府には懸念材料だ。
最後にして、おそらく最も強力な要因は政治的リスクだ。台湾侵攻が大規模な抗議活動や一般市民の怒りを招き、中国の広大な支配システムを圧倒する結果になる事態はいくつか想定できる。その1つが、侵攻が失敗した場合だ。
台湾との統一は公正かつ不可避で、軍事的勝利は容易だという考えを、中国は国内で売り込んできた。中国国民の多くは、その宣伝文句を固く信じている。だからこそ、失敗のリスクは増幅する。
ナショナリズムや自己過信、不安や愚かさは世界情勢を動かす大きな力だ。だが少なくとも現時点では、中国の台湾侵攻に伴う巨大なリスクとともに、強気に出れば侵攻不要で台湾を屈服させられるという想定が、中台戦争の確率を引き下げている。