スイスの領土がひっそりと広がる 氷河融解で
国境線の変更内容は未公開、山小屋の主だけが知る
今回の変更に関しては、国境線が約100メートルにわたって引き直されたことが公表されているのみだ。山小屋の帰属をめぐるスイス・イタリア間の外交交渉は2018年にはじまり、昨年になって妥協案が原則合意に至った。AFPは、詳細な情報は来年以降、スイス政府が正式に承認した段階で発表されるとしている。
通例通りの扱いであれば、尾根部分でスイス領が拡大した埋め合わせとして、既存のスイス領の一部がイタリアに組み入れられる。スイス連邦地形局の元責任者であるジャン=フィリップ・アムシュタイン紙は、ガーディアン紙に対し、このようなケースでは表面積と価値が等しい土地を交換するのが通例だと説明している。
ただ、今回のケースでは交換は行われず、新たな国境線は新旧の分水嶺の間で着地する可能性がありそうだ。地形局のウィッチ氏はガーディアン紙に、「我々は差分を分割することで合意しました」と明かしている。
変更内容の詳細は公開されていないが、山小屋の管理人を務める51歳のルチオ・トゥルッコ氏だけでは、山小屋の帰属先がこれからもイタリアになることをすでに知らされたという。
トゥルッコ氏はガーディアン紙に対し、「私たちはずっとイタリアに所属してきましたから、山小屋はイタリアのものであり続けます」「メニューはイタリア語、ワインもイタリア産、税もイタリアのものです」と述べ、イタリアへの愛着を語った。
アルプスの高地では、人の手で引く国境線が自然現象に翻弄されるというめずらしい現象が起きているようだ。