最新記事

人権問題

ミャンマー軍政、さらなる死刑執行の恐れ 刑務所で死刑囚を他の受刑者から隔離

2022年7月30日(土)21時30分
大塚智彦

この隔離が何を意味するものかは不明だが、NUGでは死刑執行の準備段階に入ったのではないかとの見方を示し警戒を強めている。

AAPPはミャンマー全土で死刑が確定した政治犯は欠席裁判で判決を受けた41人を含めて117人もいるとしており、ヤンゴンのインセイン刑務所以外での死刑執行も予測される事態となっているとしている。

刑務所からの連絡を恐れる政治犯家族

現地で反軍政の立場から報道を続ける独立系メディアの「ミャンマー・ナウ」や「ミィズィマ」などによると、死刑が確定している政治犯の家族は刑務所からの電話を恐れているという。

23日に死刑が執行されたゾー議員とコー・ジミー氏らの家族は執行日前日の22日に刑務所から連絡があり、「Zoom」を使用したインターネット経由でそれぞれ本人と会話することが許された。その時点では死刑執行が翌日に迫っていることは家族や本人には知らされていなかったという。

だがコー・ジミー氏は家族に対して「人には誰しもカルマ(運命)がある。どうか心配しないでくれ、ここ数日私は瞑想してダルマ(真理)と共に生きる」と気丈に話したという。この会話からコー・ジミー氏は近く死刑執行があることを覚悟していたとみられると伝えている。

こうしたことから死刑が確定した政治犯の家族は刑務所から連絡があればそれが親族や家族との最後の別れになると戦々恐々としているというのだ。

次の死刑執行候補者とされる若者2人

そうした状況の中、独立系メディアによるとインセイン刑務所で次に死刑が執行される可能性の高い政治犯として2人の若者を取り上げている。

その2人はテット・パイン・ソー氏(27歳)とワイ・ヤン・トゥン氏(25歳)で、共に2021年7月にヤンゴンのサウス・ダゴン郡区で軍政が任命した行政官を殺害したほか、複数の軍政関係者を殺害した容疑で訴追され、軍事裁判で複数の容疑で共に逮捕からわずか5カ月後に死刑判決を受けているという。

ゾー氏は4件の殺人容疑で4つの死刑判決を下され、トゥン氏は3件の容疑で3つの死刑判決を受けているという。このため2人の死刑執行が近いのではないかとの観測が高まっているのだ。

2人の政治犯の消息は不明だが、独立系メディアは消息筋の情報としてソー氏が26日に他の死刑囚といた房から引き出され、どこかに隔離されたという。これが死刑執行が近い兆候として「国民統一政府(NUG)」などは軍政を非難するとともに警戒している。

軍政のゾー・ミン・トゥン国軍報道官は28日、BBCビルマ語サービスとのインタビューで「複数の死刑判決がでている場合には法的な手段をとるだけだ」として複数の死刑判決がでているソー氏やトゥン氏の死刑執行の可能性を排除しなかった。

今後軍政がさらなる政治犯の死刑執行を実施すれば、ますますの国際社会からの孤立と反軍政の民主勢力、特にNUG傘下の武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や国境付近で反軍政活動を続ける少数民族武装勢力との戦闘がさらに激化するものとみられており、ミャンマーの混迷の度はますます深まるものとの見方が有力だ。

今、ASEANや国際社会の軍政へのさらなる厳しい対応が求められている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅続落で寄り付く、米株急落の流れ引き継

ビジネス

2月実質消費支出、前年比-0.5%=総務省(ロイタ

ワールド

日米韓、エネルギー協力の強化で合意 3カ国外相共同

ワールド

ロシアはエネ施設停戦に違反、米国務長官にウクライナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 3
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 6
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 9
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中