ミャンマー軍政、さらなる死刑執行の恐れ 刑務所で死刑囚を他の受刑者から隔離
この隔離が何を意味するものかは不明だが、NUGでは死刑執行の準備段階に入ったのではないかとの見方を示し警戒を強めている。
AAPPはミャンマー全土で死刑が確定した政治犯は欠席裁判で判決を受けた41人を含めて117人もいるとしており、ヤンゴンのインセイン刑務所以外での死刑執行も予測される事態となっているとしている。
刑務所からの連絡を恐れる政治犯家族
現地で反軍政の立場から報道を続ける独立系メディアの「ミャンマー・ナウ」や「ミィズィマ」などによると、死刑が確定している政治犯の家族は刑務所からの電話を恐れているという。
23日に死刑が執行されたゾー議員とコー・ジミー氏らの家族は執行日前日の22日に刑務所から連絡があり、「Zoom」を使用したインターネット経由でそれぞれ本人と会話することが許された。その時点では死刑執行が翌日に迫っていることは家族や本人には知らされていなかったという。
だがコー・ジミー氏は家族に対して「人には誰しもカルマ(運命)がある。どうか心配しないでくれ、ここ数日私は瞑想してダルマ(真理)と共に生きる」と気丈に話したという。この会話からコー・ジミー氏は近く死刑執行があることを覚悟していたとみられると伝えている。
こうしたことから死刑が確定した政治犯の家族は刑務所から連絡があればそれが親族や家族との最後の別れになると戦々恐々としているというのだ。
次の死刑執行候補者とされる若者2人
そうした状況の中、独立系メディアによるとインセイン刑務所で次に死刑が執行される可能性の高い政治犯として2人の若者を取り上げている。
その2人はテット・パイン・ソー氏(27歳)とワイ・ヤン・トゥン氏(25歳)で、共に2021年7月にヤンゴンのサウス・ダゴン郡区で軍政が任命した行政官を殺害したほか、複数の軍政関係者を殺害した容疑で訴追され、軍事裁判で複数の容疑で共に逮捕からわずか5カ月後に死刑判決を受けているという。
ゾー氏は4件の殺人容疑で4つの死刑判決を下され、トゥン氏は3件の容疑で3つの死刑判決を受けているという。このため2人の死刑執行が近いのではないかとの観測が高まっているのだ。
2人の政治犯の消息は不明だが、独立系メディアは消息筋の情報としてソー氏が26日に他の死刑囚といた房から引き出され、どこかに隔離されたという。これが死刑執行が近い兆候として「国民統一政府(NUG)」などは軍政を非難するとともに警戒している。
軍政のゾー・ミン・トゥン国軍報道官は28日、BBCビルマ語サービスとのインタビューで「複数の死刑判決がでている場合には法的な手段をとるだけだ」として複数の死刑判決がでているソー氏やトゥン氏の死刑執行の可能性を排除しなかった。
今後軍政がさらなる政治犯の死刑執行を実施すれば、ますますの国際社会からの孤立と反軍政の民主勢力、特にNUG傘下の武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や国境付近で反軍政活動を続ける少数民族武装勢力との戦闘がさらに激化するものとみられており、ミャンマーの混迷の度はますます深まるものとの見方が有力だ。
今、ASEANや国際社会の軍政へのさらなる厳しい対応が求められている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など