日本から中国に帰国したウイグル女性を待っていた「悪魔の命令」と「死の罠」
A DEATH TRAP
新疆公安ファイルで流出した収容所の女性の写真。今も多くの人が自由を奪われている COURTESY TO AFUMETTO RETEPU
<教育者を目指して来日したウイグル人女性が落ちた「死の罠」。流出した新疆公安ファイルが物語る「絶望収容所」の真実>
今年5月24日、中国当局が「職業技能教育訓練センター」と称して国際社会をだましてきた東トルキスタン(編集部注:中国名は新疆ウイグル自治区)の強制収容所に関する大量の内部資料「新疆公安ファイル」が流出。もはや隠し通せない、ウイグル人に対する恐ろしい非人道的犯罪の決定的証拠が明らかになった。
流出したのは、中国共産党幹部らの発言を記録した機密文書や収容者名簿、収容施設の内部を撮影した写真など数万件に及ぶ内部資料だ。公安当局のコンピューターに保存されていたデータがハッキングによって流出し、日米欧の主要メディアが内容を検証した上で一斉に報じた。
元収容者たちのこれまでの証言を裏付けるばかりの資料は、世界中で大きな衝撃を持って受け止められた。特に、収容された親を心配して日本から帰国した後、自身が収容され死亡したウイグル人女性に関する情報が流出資料に含まれていることに、私たち在日ウイグル人は目を疑い、心が折れる思いをしている。
今回流出した機密文書を検証した世界の主要メディアが、当時の新疆ウイグル自治区政府のトップ陳全国(チェン・チュエングオ)が演説の中で「収容者が数歩でも逃げたら射殺せよ」と言い切っていることに注目し、大きく報じた。
ミヒライさんの命を奪った「悪魔の命令」
一方で、私たちが注目したのは、海外からの帰国者の扱いに関する指示である。陳の演説では、海外からの帰国者は片っ端から捕らえ、重大犯罪者の取り扱いに従い手錠や覆面を着け、必要なら足かせもしろ、と明確に指示していた。
流出した収容者名簿は東トルキスタン南部にあるカシュガルの小さな農村地区、コナシェヘル県のもので、2万3000人以上の名前や生年月日、身分証番号、住所、収容理由、収容先などの詳細な情報が並んでいる。名簿をよく確認していくと、この町の出身で、2019年に日本から帰国した後に収容され、翌年死亡したウイグル人女性ミヒライ・エリキンさんの情報が載っていた。
名簿にはミヒライさんの中国名や住所、身分証の番号などがあり、当局の対応指針として「未収押」(収容されていない)、「出境未帰」(国外にいて中国に帰ってきていない)、「防回流」(帰国したら再出国を防ぐ)などと記載されていた。この名簿が作成されたのは17~18年で、当時ミヒライさんは日本に滞在していた。この名簿の存在や、「海外からの帰国者は片っ端から捕らえろ」との命令を知らずに帰国し、命を落としてしまったことになる。