「神の国実現のため」献金していた元信者が証言 「旧統一教会の実態」と「安倍ファミリーの関係」
山上容疑者がにわか信者としてわずかでも教団の施設に通っていれば、先のような話を聞いているでしょうし、もし信者ではなかったとしても、母親からの勧誘のなかで、安倍一族に関する話はあったに違いありません。
他者を排除するような思想団体に入信してしまうと、家族に大きな迷惑をかけることになります。筆者も長きにわたって家族に精神的、金銭的負担をかけてきました。脱会についても、家族、親族の献身的な助けを受けました。脱会できたのは、これまで教団から教えられてきた「幸福になるための神の教え」が、どれほど家族らを苦しめてきたのかに気づいたからです。
名称とは正反対の実態
今回の会見で、会長は「個人の救い」だけではなく「家庭の救い」を目指すなかで、名称を「統一教会」から「世界平和統一家庭連合」に変えた、と語りました。
しかし、それを聞きながら思うのは、「家庭の救い」とは正反対の状況です。
容疑者によれば、母親は教えを信じて多額の献金をした結果、破産してしまいました。それにより、母と息子との関係にもひびが入り、家庭は崩壊しました。
筆者自身が脱会を決意できたのも、多額の献金のため借金に苦しむ仲間の信者らの姿をみて、教団側の言葉の矛盾に気づいたからです。幸い筆者は大きな借金をせずに教団を脱会できましたが、今回のように、金銭を奪われたことで恨みが深くなり、その反動から、過激な行動に出てしまう人もいるかもしれません。
実のところ、元信者やその家族らの教団への恨みから暴力事件などが起こる可能性を筆者は以前から懸念していました。こうした事態を繰り返すことは絶対に避けなければなりません。そこで、あえて過去のつらい経験をお伝えすることにしました。
教団内にいれば、毎日のように「神の国実現」のための献金が叫ばれます。思想を信じる人ほど、その教団の願いに応えようと必死になります。「カードでお金を借りてでも、献金しなさい」と言われれば、そうせざるをえない状況です。その結果、当時、返済に困り、破産したり、金銭的に困窮したりする信者がたくさんいました。
こうした「過去の出来事」は、今回の悲劇と無関係とは思えません。かつて統一教会は霊感商法に際して「信者が勝手にやったこと」とうそぶくことがありました。しかし、教団の教えをもとに信者がこれらの活動を行っていたことは周知の事実であり、こうした信者の行動に対して一定の責任があるはずです。
もちろん事件の責任は、安倍氏を殺害した山上容疑者にありますが、統一教会の教えが発端になり、山上容疑者の家族関係が破綻に追い込まれたのだとすれば、今回の事件について道義的な責任はあるのではないでしょうか。
それに当時、家や土地を担保にして、無理な借金を重ねさせて献金させるケースは、他にも数多くあったと考えています。こうした献金手法に問題はなかったのかなど、今回のような悲劇を繰り返さないためにも、よりいっそうの厳しい目を向けての議論が必要だろうと思います。
多田文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
1965年生まれ。北海道旭川生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌『ダ・カーポ』にて「誘われてフラフラ」の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。これまでに街頭からのキャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。キャッチセールスのみならず、詐欺・悪質商法、ネットを通じたサイドビジネスに精通する。著書に『サギ師が使う交渉に絶対負けない悪魔のロジック術』、『迷惑メール、返事をしたらこうなった。』、『マンガ ついていったらこうなった』(いずれもイースト・プレス)などがある。