最新記事

生物

ヒトの顔の皮膚に寄生するニキビダニは寄生生物から共生生物に変化しつつあった

2022年6月29日(水)16時50分
松岡由希子

ヒトの顔の皮膚に寄生するニキビダニ wikimedia

<多くのヒトの顔の皮膚のに寄生するニキビダニは、孤立した環境で近親交配する結果、不要な遺伝子や細胞がそぎ落とされ、外部寄生から内部共生へと移行していることが明らかになった......>

ニキビダニとは、ヒトの皮膚の毛包に寄生、常在する体長約0.3ミリのダニの一種だ。毛穴から分泌される皮脂を食べ、夜行性で、夜間に生殖活動を行う。

英バンガー大学、レディング大学らの研究チームは、ニキビダニのゲノムシーケンシング解析を初めて行い、「ニキビダニは孤立した環境で近親交配する結果、不要な遺伝子や細胞がそぎ落とされ、外部寄生から内部共生へと移行している」ことを明らかにした。その研究論文は2022年6月21日付の学術雑誌「モレキュラーバイオロジー・アンド・エボリューション」に掲載されている。

ニキビダニは孤立して存在し、外的脅威にさらされない

研究論文の共同著者でレディング大学のアレハンドラ・ペロッティ准教授は「ニキビダニは、毛穴の内部で守られた生活に適応するため、他の類似種とは異なる遺伝子配列を持つ」とし、「このようなDNAの変化によって特異な体の特徴や行動がもたらされている」と解説する。

ニキビダニは孤立して存在し、外的脅威にさらされず、宿主への侵入での競争もなく、異なる遺伝子を持つ個体とも遭遇しないため、遺伝子の減少により、わずか3つの単細胞筋で支えられた小さな脚を持つ極めて単純な生物になる。

夜行性なのも、遺伝子の減少によるものだ。ニキビダニには紫外線防護機能がなく、日光で目覚める遺伝子もない。小型無脊椎動物を夜間に活発にさせるホルモンの「メラトニン」を生成することもできない。しかし、夕方にヒトの皮膚から分泌されるメラトニンを使って、夜間、活発に行動する。

humans-feat-image.jpg

ニキビダニ(University of Reading)


ニキビダニは寄生生物から共生生物に変化しつつある

ニキビダニの特異な遺伝子配列はユニークな交尾習性にもつながっている。生殖器が前方に移動し、雄の男性器は体の前面から上方に突き出している。そのため、雄が雌の下に潜り込み、ともにヒトの毛にしがみつきながら交尾する。

ニキビダニは孤立した環境で生息するため、遺伝的多様性を広げる機会に乏しい。つまり、ニキビダニは進化的行き止まりへと向かっており、絶滅のおそれもある。このような現象は細胞内で生息する細菌でみられるが、動物で確認されるのは初めてだ。

今回のゲノムシーケンシング解析では、ニキビダニの細胞数は若虫(ニンフ)のほうが成虫よりも多いことも示された。これは、「寄生動物は発生の初期段階に細胞数を減らす」という従来の通説を覆すものだ。研究チームでは、「ニキビダニは成虫の段階から細胞数の減少が始まり、これが共生生物になる最初の段階なのではないか」と考察している。

■■【閲覧ご注意】動画:ヒトの皮膚に寄生するニキビダニ■■

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

メキシコ・加・中、関税阻止できず 2月1日発動へ=

ビジネス

FRB元顧問を逮捕・起訴、経済スパイ共謀罪 中国に

ワールド

米、ヘリのブラックボックスも回収 首都空港付近のヘ

ワールド

ベネズエラ、米国人6人解放 マドゥロ大統領と米特使
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    またか...アメリカの戦闘機「F-35」が制御不能に「パ…
  • 6
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 7
    「自由に生きたかった」アルミ缶を売り、生計を立て…
  • 8
    幼い子供には「恐ろしすぎる」かも? アニメ映画『野…
  • 9
    ロシア石油施設・ミサイル倉庫に、ウクライナ軍がド…
  • 10
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 6
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中