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微生物「プロバイオティクス」がうつ病の治療に役立つ可能性があることが明らかに
プロバイオティクスが大うつ病性障害(MDD)の治療に役立つ可能性がある...... ArtistGNDphotography-iStock
<プロバイオティクス(ヒトに有益な効果を与える微生物)が大うつ病性障害(MDD)の治療に役立つ可能性があることが明らかとなった......>
これまでの研究では、腸内細菌叢が私たちのメンタルヘルス(精神衛生)に重要な役割を果たしている可能性が指摘されている。そしてこのほど、プロバイオティクス(ヒトに有益な効果を与える微生物)が大うつ病性障害(MDD)の治療に役立つ可能性があることが明らかとなった。その研究論文は医学雑誌「トランスレーショナル・サイカエトリー」に2022年6月3日付で掲載されている。
腸内細菌叢の組成に変化がみられた
スイス・バーゼル大学と精神科クリニック「UPKバーゼル」の研究チームは、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)で軽症と診断され、うつ病の通常治療を受けている「UPKバーゼル」の入院患者47人を対象に、うつ病患者へのプロバイオティクスの効果について調べた。
抗うつ薬に加え、被験者のうちの21人はプロバイオティクスサプリメント、残り26人は偽薬を31日間にわたって服用した。その結果、抗うつ薬による通常治療ですべての被験者のうつ症状が改善したものの、プロバイオティクスを摂取したグループは偽薬を服用したグループより大きな改善が認められた。
また、腸内細菌叢の組成にも変化がみられた。プロバイオティクスを摂取したグループでは、摂取期間終了時に乳酸菌が増加し、これがうつ症状の改善と関連していた。なお、その4週間後には乳酸菌のレベルが再び下がっていた。研究論文の筆頭著者でバーゼル大学のアンナ-キアラ・シャウブ博士は「4週間という摂取期間は十分でなく、腸内細菌叢の新しい組成が安定するまでにはより時間がかかるのかもしれない」と考察している。
脳活動にも変化をもたらした
プロバイオティクスは脳活動にも変化をもたらした。うつ病患者では感情処理を担う特定の脳領域の挙動が異なり、これは顔の表情に対する反応で測定される。
研究チームは、fMRI(磁気共鳴機能画像法)で脳活動を画像化し、恐怖の表情と無表情への被験者の反応を調べた。その結果、プロバイオティクスを摂取したグループでは脳活動が正常化した一方、偽薬を服用したグループでは正常化しなかった。
腸内細菌叢-腸-脳軸(MGB axis)のメカニズムについてはまだ解明されていないものの、今回の研究成果はプロバイオティクスが抗うつ薬による治療をサポートできる可能性を示すものだ。
うつ病は新たな治療法の開発が急務
現時点において、大うつ病性障害の治療法はまだ満足できるものではなく、うつ病患者の3分の2は最初に投与される抗うつ薬に十分な反応を示さない。新たな治療法の開発が急務となっている。シャウブ博士は「特異な作用を持つ細菌が特定できれば、これを最適に選び出して組み合わせ、うつ病治療をサポートできるかもしれない」と期待を寄せている。