最新記事

宇宙

最も明るく、最も急速に成長するブラックホール発見 銀河の全恒星の7000倍輝く

2022年6月20日(月)17時30分
青葉やまと

クエーサーのイメージ Credit: ESO/M. Kornmesser

<70億光年先で輝き、1秒ごとに地球1個分の質量を呑み込んでいる>

オーストラリアなどの国際研究チームが、巨大かつ非常に明るいブラックホールを発見した。地球からみてケンタウルス座付近に位置し、「J1144」の記号で呼ばれている。地球から約70億光年という遠距離(観測可能な宇宙の約半分の距離に相当)にありながら、かんたんな望遠鏡さえあれば地球からも観察できるほどの明るさだ。

超大型のブラックホールのうち、非常に明るい可視光線を放つ天体をクエーサーと呼ぶ。今回発見されたこのクエーサーは、天の川銀河のすべての恒星を合計したものよりも約7000倍明るい光を放っている。豪ABCニュースは、「それゆえ、適した望遠鏡があれば自宅の裏庭からも目にすることができる」と紹介している。チームを率いたクリストファー・オンケン博士は英ガーディアン紙に対し、具体的には30〜40センチ大の手頃な望遠鏡があれば観察可能だと説明している。

J1144は、オーストラリア国立大学のクリストファー・オンケン博士率いる国際チームが発見した。「J114447.77-430859.3」または簡易的に「J1144」の名で識別されている。査読前のプレプリントが6月9日付で発表され、オーストラリア天文学会の発行する科学ジャーナル『Publications of the Astronomical Society of Australia』への論文掲載が申請されている。

明るいブラックホールとは

ブラックホールが光を放つとは不思議だが、これは「降着円盤」と呼ばれる現象によるものだ。ブラックホールの中心部は光を呑み込むため漆黒だが、その周囲には引き寄せられたガスやほかの天体が環状に漂っている。この部分を降着円盤という。ガスは中心部に向かって落ちるなかで、回転しながら円盤状を形成し、重力と激しい摩擦により極度の高温となる。こうして可視光線を含む電磁波が放出される。

aoba2022a910.jpg

過去90億年間でもっとも明るく、かつ最も急速に成長しているブラックホール Credit : Christopher Onken/Australian National University


オンケン博士はこのクエーサーについて、過去90億年間でもっとも明るく、かつ最も急速に成長しているブラックホールだと説明している。その質量は、実に太陽30億個分に相当するようだ。宇宙ができた138億年前にはこのような巨大ブラックホールが多く生成されたが、それ以降は発生の頻度が下がっており、若いブラックホールではここまで巨大なものはめずらしい。チームは過去60年間に発見されたほかの天体と比較したが、90億歳よりも若い天体としては、これほどまでに明るいブラックホールはほかに存在しなかったという。

明るいブラックホールということは、それだけ急速に成長していることを意味する。より多くのガスやほかの天体を降着円盤として引き寄せ、早いペースで吸収していると推測できるからだ。J1144は毎年、太陽80個分に相当する質量を吸収していると推測される。秒換算では、1秒ごとに地球1個を呑み込んでいる計算となる。

常識の逆をいく調査方針で成功

現在のところ、J1144が同年代のほかのブラックホールよりも急激に成長している理由はわかっていない。博士はひとつの可能性として、2つの大きな銀河同士が衝突し、ブラックホールの成長を促したのではないかと考えている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中