世界初、患者の細胞をもとにバイオ3Dプリンターで作製し、耳の再建に成功
患者の耳から軟骨細胞を採取し、細胞培養システムで増殖させた 3DBio Therapeutics
<患者の耳介の軟骨細胞をもとに3Dバイオプリンティング技術を用いて作製した独自のインプラントで小耳症患者の耳介再建が初めて行われた......>
米コーネル大学の卒業生らが2014年に創設した再生医療ベンチャーの3Dバイオ・セラピューティクスは、2022年6月2日、患者自身の耳介(耳の外に張り出て飛び出している部分)の軟骨細胞をもとに3Dバイオプリンティング技術を用いて作製した独自のインプラント「オーリノボ」で小耳症患者の耳介再建を初めて行ったことを明らかにした。
患者の耳から軟骨細胞を採取し、細胞培養システムで増殖
小耳症とは、一方もしくは両方の耳介が生まれつき小さいか欠けている状態をいい、欠損の状態によって第一度から第四度の無耳症(耳介がない状態)まで4類型に分類される。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、米国では推定約2000~1万人に1人が発症しているという。
小耳症患者の耳介再建には、患者から採取した肋軟骨で耳介のフレームを作製して移植する方法と、多孔質ポリエチレン(PPE)のインプラントを用いる方法が知られる。第二度から第四度の小耳症患者の耳介再建に向けて開発された「オーリノボ」は、前者に比べて患者への負担が軽く、後者よりも適応性があるのが利点だ。
具体的には、患者の耳の形状に合わせるため、欠損していない側の耳を3Dスキャンした後、患者の耳から0.5グラムの軟骨細胞を採取し、これを特殊な細胞培養システムで増殖させる。さらに、これをコラーゲンベースのバイオインク「コルビボ」と混ぜ、バイオ3Dプリンターで耳介のインプラントを作製し、患者の耳の皮下に埋め込む。移植された耳介は時間の経過とともに自然な外観や感覚となっていく。
将来的には、乳房再建や臓器移植へ
今回の耳介再建の執刀医であるテキサス州サンアントニオの小耳症専門小児形成外科医アルトゥーロ・ボニーヤ医師は「これまで国内外の多くの小耳症の子どもたちを治療してきた医師として、この技術が患者やその家族にどのような意味をもたらすのだろうかとワクワクする」とし、「私の望みは『オーリノボ』がいつか耳介再建の標準治療となることだ」と大いに期待を寄せている。
「オーリノボ」の第一相/初期第二相臨床試験には、ボニーヤ医師とカリフォルニア州ロサンゼルスのシダーズ・サイナイ医療センターのジョン・ライニッシュ医師のもと、患者11人が参加。小耳症患者への「オーリノボ」の安全性や予備的有効性の評価がすすめられている。
3Dバイオ・セラピューティクスでは、当面、外鼻欠損や脊椎変性の治療といった再建外科や整形外科の分野での活用に注力する方針だが、将来的には、乳房再建や臓器移植への応用も視野に入れている。