最新記事

ロシア

60年代、ソ連が闇に葬った宇宙飛行士がいた? いまも残るSOSの音声記録

2022年6月15日(水)16時35分
青葉やまと(Pen Onlineより転載)

Kosmonauta-Vimeo

<1961年、燃えゆくソ連の宇宙船から助けを求める女性宇宙飛行士の声を傍受したと主張し、世間を驚かせた音声がある......>

人類初の有人宇宙飛行を成功させ、宇宙開発史にその名を残したソ連のユーリー・ガガーリン。1961年にこの偉業を成し遂げたガガーリンだが、彼の成功直後に宇宙を目指し、闇に葬られたソ連の女性宇宙飛行士がいたという噂が囁かれている。

イタリアの無線愛好家の兄弟が1961年、燃えゆくソ連の宇宙船から助けを求める女性宇宙飛行士の声を傍受したと主張し、世間を驚かせた。これを録音したとされるものが、現在も残る(次ページに掲載)。英デイリー・スター紙が要所の英訳を掲載しているので、さらに日本語訳にした形でご紹介したい。

残された音声は生々しいトーンで、徐々に悪化する船内の状況を訴えている。「聞いて......聞いて! 応答せよ、応答せよ、応答せよ。話して! 話して!」「暑い! え? 45、50。よし、よし。息、息。酸素、酸素。暑い、危険じゃない?」

声は次第に感情的になりながらも、交信を確保しようと試みる。「本当に......そう......これは? 何? 応答して! どう発信すれば。そう。何? 発信を開始。41。こうだ。できた。暑い。本当に......暑い。暑い。」

最後には炎がコックピットに達したのか、次のような言葉が残されている。「炎がみえる。炎がみえてる! 暑い。暑い。32。32。41。墜落するの? そう、そう。暑い。暑い! 再突入する。」

大気圏再突入に失敗?

この音声データが事実であれば、ソ連がガガーリンの直後に有人宇宙飛行に失敗し、犠牲者を闇に葬っていたことになる。デイリー・スター紙は、「この宇宙飛行士は地球の大気圏に再突入する際に技術的問題に見舞われ、『消えた』とされる」と報じている。ミッションが失敗したことで、ソ連はミッションの存在自体を隠ぺいしたとの見方がある。

時系列を整理すると、ガガーリンがボストーク1号に単身登場し、人類初の有人宇宙飛行を成功させたのが1961年4月だ。「地球は青かった」との名言を残したのもこのときだ。より忠実な訳では、「空はとてもとても暗く、地球青みがかった色をしていた」となる。

早くも約1ヶ月後の同年5月5日、当時激しい宇宙開発競争を繰り広げていたアメリカは、マーキュリー3号にアラン・シェパード氏を登場させ、有人宇宙でソ連に追いつく。

リードを広げたいソ連は同年8月、ボストーク2号にゲルマン・チトフ氏を乗せ、地球17周の旅を成功させた。チトフ氏はソ連で2番目の宇宙飛行士として名を残している。

一方、本音声は同年5月23日に傍受されている。帰還に成功していれば、ソ連で2番目の宇宙飛行士、かつ世界初の女性宇宙飛行士として知られることになっていたのかもしれない。ただし、この音声記録については陰謀論の類だとの捉え方もあり、必ずしも信憑性があると考える人ばかりではないようだ。

いずれにせよ、鬼気迫るこの音声は人々の興味を惹き、数年ごとに話題となっている。2014年には、実際の音声をもとに事件を映像化した5分間の短編映像作品『Kosmonauta』が制作された。

今日ではイーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏などが率いる民間宇宙企業も含め、ロケット開発の進展が華々しい。その影で、2003年にはアメリカのスペースシャトル「コロンビア号」が大気圏再突入に失敗して空中分解する痛ましい事故が起きるなど、宇宙開発は成功と失敗の繰り返しだった。歴史の影に、人知れず犠牲となったソ連の宇宙飛行士がいたのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領が戒厳令、国会は「無効」と判断 軍も介入

ビジネス

米求人件数、10月は予想上回る増加 解雇は減少

ワールド

シリア北東部で新たな戦線、米支援クルド勢力と政府軍

ワールド

バイデン氏、アンゴラ大統領と会談 アフリカへの長期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計画──ロシア情報機関
  • 4
    スーパー台風が連続襲来...フィリピンの苦難、被災者…
  • 5
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 6
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 7
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    「92種類のミネラル含む」シーモス TikTokで健康効…
  • 10
    赤字は3億ドルに...サンフランシスコから名物「ケー…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中