妊婦に多数の粉ミルク広告 SNS経由激増のカラクリ
レキットベンキーザーは、乳児に最適な栄養に関する不可欠な情報を親に提供し、全ての地域でマーケティングに関する規則を順守しており、こうした各地域の規則はWHOの規範よりも厳しいことが少なくないとしている。
一方、ネスレは2022年末から全世界で6カ月未満の乳児への粉ミルクの販売促進を停止すると発表した。既に163カ国では12カ月未満の乳児用向けの粉ミルクの販促を行っていない。
ただ、ネスレなど一部のメーカーは、独立した「悪質な業者」の行動を管理することは不可能だと主張している。
ネスレの幹部、マリー・シャンタル・メシエ氏は「例えば、中国にいる人がオーストラリアで粉ミルクを買った上で、個人的にインターネット上で売ることは簡単にできる。人々はWHOの規範を知らないことが多いので、われわれがこの問題に関与するのは難しい」と語った。
これに対し、WHOのストローン氏は「この問題に複数の役者が関わっているというメーカーの指摘は正しい」としつつ「メーカーはマーケティング業者に報酬を支払い、誤った情報を拡散するさまざまな団体のスポンサーになっている」と指摘。メーカーの責任を問わないのは、不公平だと反論した。
増えるデジタル広告費
WHOは今回の報告書で、6カ月間にわたり乳児栄養に関する400万件のソーシャルメディア上の投稿データを分析した。これらの投稿は24億7000万人に届き、「いいね」、「シェア」、「コメント」の数は1200万件以上に達した。
WHOの調査対象となった264件の母乳代用品ブランドのアカウントは、1日あたりの投稿数が約90回、投稿を受け取ったユーザー数は2億2900万人に上った。
調査会社・ニールセンによると、乳児用粉ミルク業界がレディット、フェイスブック、インスタグラム、ツイッターに費やした広告費は米国だけで2021年に382万ドルと、17年の約2倍に膨らんだ。昨年の乳児用粉ミルクの販売広告費で、デジタルが他の手法を抑えて最多となった。
ネスレのガーバー・グッドスタートなど乳児用栄養ブランドで20件以上のキャンペーンを手がけたインフルエンサー広告代理店・リンキアの共同創業者、マリア・シプカ氏は「2、3年前は予算の5%未満しかインフルエンサーマーケティングに回っていなかったが、今では25%から50%になりそうだ」と述べた。インフルエンサーによるキャンペーンの真の価値は「プロモーションのにおいがしない」ことだと言う。
しかし、広告の頻度が増加し、母親たちはどんどん母乳育児から遠避けられていると、ソーシャルメディアによる販促に懐疑的な見方もある。
ニューヨークの授乳コンサルタント、レベッカ・フォー氏は「インスタグラムでもフェイスブックでも、私の投稿のいたるところに広告が表れる」と言う。「増えているのに気付いた。当然、怒りやいら立ちを感じる」──。
(Richa Naidu記者)
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