妊婦に多数の粉ミルク広告 SNS経由激増のカラクリ
米ニューヨークの非営利団体でシニアアナリストとして働くステファニー・ラバータさん(31)は、妊娠6カ月の時に自身のインスタグラムやフェイスブックに時折、粉ミルクの広告が表示されるようになったことに気付いた。フランス南部セートで2016年3月撮影(2022年 ロイター/Regis Duvignau)
米ニューヨークの非営利団体でシニアアナリストとして働くステファニー・ラバータさん(31)は、妊娠6カ月の時に自身のインスタグラムやフェイスブックに時折、粉ミルクの広告が表示されるようになったことに気付いた。
1年後の今は1日に3回から4回で、代表例はレキットベンキーザーの「エンファミル」か、ネスレの「ガーバー・グッドスタート」だ。
「実際、けさも私のフィードにはガーバーの広告が出た。最初は赤ちゃんの笑顔を投稿するコンテストについてで、その後はいろんな種類の粉ミルクや商品が次々に」とラバータさん。
ソーシャルメディアに広告が流れ込むようになって間もないころには突然、オンライン登録した先から乳幼児用ケア用品のセットが届き、その中には粉ミルクも含まれていた。
こうしたマーケティング手法は世界保健機関(WHO)が4月29日に公表した報告書で指摘した、デジタルメディアを通じた「母乳代用品の不適切な販売促進活動」に当たる。
WHOは今年2月、今回の報告公表に先立ち、粉ミルク業界で「強引な」販売戦略が幅広く行われていると警鐘を鳴らす調査結果を発表した。ユーロモニターによると、今年の粉ミルクの売上高は540億ドル余りに増加する見通しだ。
WHOの研究者は、報告で「母乳代用品メーカーは、最も不安定な時期の妊婦や母親に対し、ソーシャルメディアのプラットフォームやインフルエンサー(インターネット上で強い影響力を持つ投稿者)から直接アクセスする手段を買っている」と指摘。
こうした企業はアプリや相談サービス、オンライン登録を利用して個人情報を収集し、その消費者に特化した母乳代用品の広告を母親に送っているという。
ラバータさんの経験は欧米諸国では「ごく普通のこと」だと語るのは、報告書の執筆者の1人であるローレンス・グルマー・ストローン氏。「メーカーはデジタル技術を駆使し、こうした女性のアドレスを手に入れて妊娠していると確認し、販促活動を仕掛けるリストなどに載せている」と説明する。
WHOは1970年代から、粉ミルク業界のマーケティング手法を注意深く監視している。81年には法的拘束力のない企業行動規範を作成し、より健康的な選択肢として、可能であれば新生児には母乳を与えるよう推奨している。もちろん、母乳による育児が不可能な親は多く、粉ミルクは欠かせない。
レキットベンキーザー、ダノン、ネスレなどのメーカーはいずれも母乳を推奨しており、マーケティング担当者が母親に対してできること、できないことを細かく規定した独自の厳格なガイドラインを備えている。
ダノンのデジタルトランスフォーメーション(DX)部門グローバルヘッド、メイベル・ルー氏は、女性がオンラインで「常にコンテンツによる接触を受けている」のは事実だが、この問題はソーシャルメディアプラットフォームのアルゴリズムが、ユーザーに関連すると判断した広告を自動的に表示することが大きな原因だと述べた。