金正恩は究極の「無ワクチン」実験をやる気なのか
North Korea's Kim Jong Un Begins Ultimate No-Vaccination Experiment
マスクをして新型コロナウイルス感染対策を語る金正恩(国営通信社が5月14日に配布、撮影日は不明) KCNA/REUTERS
<このままワクチンを拒否し続ければ過去2年の無策の責任は問われずにすむかもしれないが、人口密集地での感染爆発が新たな変異株を生み、それが国境を越える危険もある>
北朝鮮の2500万人の国民は今、ワクチン未接種の状態で新型コロナの感染拡大に直面している。金正恩朝鮮労働党総書記が、世界各地で新型コロナウイルスの流行が始まってからの2年以上、自国民にワクチン接種を受けさせてこなかったからだ。
検査体制も十分に整っていない北朝鮮では、「発熱症状」が新型コロナの感染疑いと見なされており、北朝鮮政府は今週に入って、4月下旬以降の「発熱者」が170万人以上にのぼったことを認めた。WHO(世界保健機関)は、北朝鮮国内で「歯止めのきかない感染拡大」が起きれば新たな変異株の出現につながる可能性があると警告。それが人口の密集している近隣諸国、とりわけ中国に広まる危険があると懸念を表明した。
北朝鮮は、2020年1月という早い段階で、当時中国で流行が始まっていた新型コロナウイルスを警戒し、中朝国境を封鎖した。それ以降、新型コロナの感染者は出ていないと(疑わしい)主張を続けてきたが、5月12日に、国内で初めてオミクロン株の亜種「BA.2」のクラスターが発生したことを認めた。4月下旬に行われた過去最大規模の軍事パレードが、感染拡大の引き金になったとみられている。
抗生物質と民間療法が頼り
国営メディアの朝鮮中央通信(KCNA)は、この感染拡大について、金正恩が「建国以来の大動乱」と危機感をあらわにしていると伝えた。しかし効果的なワクチンがないなか、KCNAによれば5月17日までに62人が死亡しており、治療には抗生物質と民間療法に頼るしかない。
上海をはじめとする中国の主要都市の例は、感染力の強いオミクロン株の感染拡大は、長期的なロックダウンや感染者の集団隔離だけで封じ込めることが不可能であることを示している。しかし北朝鮮ではそれが、ワクチン未接種の国民に襲い掛かっている。
WHOの感染症専門家であるマリア・ファンケルクホーフェは、17日にジュネーブで行った記者会見の中で、各国政府は利用可能なあらゆるツールを活用して、新型コロナの抑制に「包括的なアプローチ」を行う必要があると述べた。
彼女はオミクロン株は「感染力は強いが毒性は弱い」という「命取りになりかねない」認識を一蹴し、基礎疾患があれば重症化するリスクもあると警告。効果的なワクチンの接種を済ませた人だけが、最も重篤な症状になるリスクを軽減できていると述べた。