全米に衝撃、「アメリカ全土で中絶禁止」に道を開く最高裁判決草案の危険なレトリック
Alito’s Radical Message
権限は州にあるという主張に最も接近するのは結論部分だ。
憲法は「各州の市民が中絶を規制・禁止することを禁じていない」と、アリートは述べている。だが、その直前で訴訟対象のミシシッピ州法を分析しているため、州の権利に関するより普遍的な宣言ではなく、ミシシッピ州は中絶を禁止できるという判断として受け取れる。
なぜこれほど慎重になるのか。理由を推測するのは難しくない。
中絶反対活動団体はロー対ウェード判決の破棄を見据え、既に共和党議員と協力して、連邦法による禁止を目指して動いている。
ワシントン・ポスト紙の報道によれば、反対派指導者の要求は妊娠6週以降の中絶の違法化だ。
中絶反対派女性の政治参画推進に取り組む団体、スーザン・B・アンソニー・リストのマージョリー・ダネンフェルザー代表は、2年後の大統領選出馬を目指す共和党の政治家と討議。妊娠6週以降の中絶禁止方針を「選挙戦の最重要項目に据える」ことに、彼らの大半が同意しているという。
連邦議会の共和党議員に、妊娠6週以降の中絶禁止を公約にするよう求める団体は少なくとも10に上る。
連邦議会では、ロー対ウェード判決破棄後の選択肢の検討が始まっている。
現時点で、上院議員19人と下院議員100人以上(全て共和党員)が「受精の瞬間」から法律上の人格を認める法案を共同提案。同法案が成立すれば、妊娠の全段階において中絶が禁じられることになりかねない。
今回の勝利を足掛かりに
より段階的な達成を目指す法案では、保護者の同意なしに未成年者を中絶目的で、州境を越えて移動させる行為を連邦犯罪に定めることが求められている。
共和党議員は最低でも妊娠15週、または20週以降の中絶を連邦法で禁止し、それ以降の中絶を認める州の法律を無効化する決意を固めているようだ。
アリートが、州の権限を唱えるスカリア流アプローチを支持していたら、連邦議会で中絶規制案を成立させるチャンスを妨げることになっていただろう。
だからこそ、中央政府の権限を制限せよという主義を取らず、代わりに民主主義そのものに漠然と訴え掛ける手法を採用したのだ。
だまされてはいけない。保守派の最高裁判事が中絶をめぐる「国レベル」の判断を否定する時代は終わった。
アリートの意見に同意した多数派判事の中で、表向きは最も穏健なブレット・キャバノーでさえ、昨年12月に行われた審理の際、中絶問題は「おそらく連邦議会」が「解決」すべきだとの見解を示している。
中絶は殺人だと心から信じる反対派は、州ごとに是非を決定するという「妥協」では決して満足しない。
草案の判断が、最終的な意見書で大幅に変更されることがなければ、彼らは欲しくてたまらないものを手に入れることになる。今回の勝利を足掛かりに、アメリカ全土での中絶全面禁止を求める戦いを推進することへの暗黙の許可を......。