最新記事

ウクライナ戦争

【河東哲夫×小泉悠】米欧の本音は「支援したくなかった」、戦争の長期的影響と日本が取るべき立場

2022年5月2日(月)16時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

河東氏×小泉氏の対談はYouTubeでフルバージョンを公開しています(こちらは全3回の前編) Newsweek Japan


■河東 ロシアの背後と内部も見ないといけない。経済が悪くなり権力が真空化すると、地方は中央に背き始める。1991年末にソ連は崩壊したが、その前の一時期、地方はモスクワに税金を送らなくなり、権力を自分たちの手に収めるようになった。

特に、タタールスタン共和国や、サハ人のヤクート・サハ共和国(現サハ共和国)といった異民族の共和国でそうした動きが起きやすい。シベリアの真ん中にあるこれらの共和国が、独立色を強めるだろう。ロシアを一匹の魚とすると、シベリア鉄道は魚の背骨。背骨の真ん中を折られると、魚は二つになってしまう。

カザフスタン、アルメニア、アゼルバイジャンなど旧ソ連諸国もロシアを信用しなくなっている。ロシア軍がそれほど強くないこともあると分かった。

2020年末のアゼルバイジャンとアルメニアの領土戦争(ナゴルノ=カラバフ紛争)では、アルメニアは同盟国のロシアに守ってもらえなかった。カザフスタンもロシアと距離を取り始めている。ロシアへの経済制裁を妨害することはしないとカザフスタンは言っている。ロシアは自分の足元が溶けてなくなっていくかもしれない。

■小泉 2年前のナゴルノ=カラバフ紛争では、トルコ軍が入ってきてアゼルバイジャン軍を指揮したとも言われている。

今は一時休戦していたナゴルノ=カラバフがきな臭い。ウクライナで手一杯のときに、トルコが旧ソ連内で何をするか。トルコはシリアにも関与しているので、シリアをめぐる情勢でトルコが何をするか。

ロシアは中国とこれまでは蜜月だった。だが、ロシアの失策のせいで国力の差がさらに開いた。中国がロシアをどう扱うか。今回の戦争を機に、ロシアと世界の関わりが変質しそうだ。

また、ベラルーシはロシアの同盟国の顔をしながら、取り込まれないように「コウモリ外交」をしていたが、今回は首根っこを掴まれている。ベラルーシは今、完全にロシアの出撃基地になっている。自国軍こそ送っていないものの、ほぼ参戦国になっている。

これまで中立だったスウェーデンとフィンランドがNATO加盟を考え始めている。そうするとロシアは北極圏からバルト海までNATOと長い国境を接することになる。西側からすると、こうでもしないとロシアと対抗できない。長期的な影響は非常に大きい。

――NATOはロシアにどう対抗し、その中で日本はどういう立場を取るべきか。

■河東 NATOとアメリカは、本音を言えば、ウクライナを本気で支援したかったわけではない。現在もそれは変わらず、ウクライナはバッファゾーン、緩衝ゾーンとして存在していればいいと考えている。

NATOは北欧諸国まで拡大するだろう。世論に押されて、ウクライナに兵器はたくさん送ると思う。だが、自らウクライナでロシア軍と戦うことはしない。もっとも、軍事顧問は多数出ているし、小規模の特殊部隊も活動しているかもしれない。

■小泉 ウクライナをこの先もNATO外に置き続けるのは抑止上問題があるので、今の戦争が何らかの形で一段落した段階で、アメリカとの二国間協定や、イギリス・ポーランドとの3カ国など、NATO以外の枠組みで防衛協定が結ばれる可能性はある。

今回の戦争を機にドイツが国防費を倍にするなど、ヨーロッパの大国が古典的な国家間戦争に備えて軍事増強に本腰を入れてきた。そうなると、ロシアの軍事的劣勢はさらに強まる。

ヨーロッパ諸国は冷戦後、国防を半ば忘れていたので、ロシアは軍事大国のような顔ができた。今、ロシアは同盟国がほとんどなく、経済力は韓国並み。その中でどうにか90万人の軍隊を維持してきた。米英仏などが対抗してくると、ロシアの軍事力はソフトパワーとしてのステータスも損なわれていく。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国百度、7─9月期の売上高3%減 広告収入振るわ

ワールド

ロシア発射ミサイルは新型中距離弾道弾、初の実戦使用

ビジネス

米電力業界、次期政権にインフレ抑制法の税制優遇策存

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中