最新記事

スターリンク

ウクライナでスターリンク衛星通信を15万人が利用 年初時点の世界契約数超える

2022年5月9日(月)17時00分
青葉やまと

端末数で及ばないが、公共スポットで利用者急増

ただ、同じ「ユーザー数」とはいえ両者は若干異なる指標であり、厳密には単純に比較することができない。世界ユーザー数(契約数)は14万5000人だが、ひとつの家庭や施設などで複数のユーザーが利用すれば、実質的な利用者の数はこれまでにも15万を超えていたことになる。

他方、衛星通信という特性上、非常用に契約したが常用していないユーザーも一定数見込まれる。これを除外すると、実際のアクティブユーザーは15万を割り込んでいても不思議ではない。

一方でウクライナに寄贈された端末は1500台から数千台の規模であり、端末数では世界計に大きく劣る。しかし、公に解放された端末を多くの市民がシェアすることで、1日のアクティブユーザーが15万人にまで急増した。

フョードロフ氏は5月8日のツイートで、光ファイバーが断絶した地区に開設された、スターリンクによる応急の通信スポットを取り上げている。こうした通信スポットに関しては、毎日は向かえないという利用者も多いと考えられる。数日おきに利用している住民も含めると、合計利用者数は1日あたり利用者の15万人を大きく超え、さらに膨らむ公算が高い。

このような差異から、世界契約数の14万5000とウクライナのアクティブユーザー15万人との比較は、かなり乱暴な計算となる。とはいえ、わずか2ヶ月強での急伸は、現地での極めて高い需要を示すひとつの目安になりそうだ。

ITが復旧を支援

端末数の少ない当初こそ軍や病院など重要施設にのみ導入されていたスターリンクだが、現在では一般的な市民の生活基盤となっている。ウクライナは侵攻以前から政府機能のデジタル化を推進してきた。

政府公式アプリの「Diia(ディーア)」は、法的効力をもつ身分証、被災補償の申請、受信困難地域でのTV視聴など、戦禍でも有効な70以上の機能を備え、1500万人以上の国民に利用されている。このような需要も、スターリンクの衛星通信への需要を後押ししたとみられる。

スターリンクはさらに、携帯の基地局が多く倒壊し、受信エリア外となった地域での電話通信をバックアップしている。ウクライナ・ボーダフォン社がスターリンクをバックホール回線(中継回線)として活用し、可搬機器を通じて4Gおよび2Gに変換して携帯の電波を送出している。

スターリンクのアプリは3月の時点ですでに、主としてウクライナからの需要により、世界で最も多くダウンロードされたアプリとなっていた。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、3月13日にAppleのApp StoreおよびGoogleのGoogle Playの合計で2万1000回のダウンロードを記録し、「一日で世界で最もインストールされた」と報じている。

関連して、同じくマスク氏が率いるテスラ社は、ソーラー発電システムとバッテリーを統合した「Powerwall」をウクライナに寄贈した。2つの救急医院の非常用予備電源として稼働が始まる。

破壊の限りを尽くされたウクライナの街角で、先端技術を積極的に取り入れながら、生活の復旧が試みられているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中