「人間の尿道に侵入する魚」 アマゾンのカンディルの謎
「アンモニアに反応して人間を襲い、尿道などから侵入する」との言い伝えられてきたカンディル YouTube
<アマゾンでは、「カンディルがアンモニアに反応して人間を襲い、尿道などから侵入する」との言い伝えがあり、川を泳いでいる間に排尿しないように呼び掛けられてきた......>
カンディルとは、南米北部のアマゾン川上流域やオリノコ川流域に生息するナマズ目の肉食淡水魚だ。
体長は最長17センチ程度で、半透明で細く、針状の小さな鋭い歯を持つ。獲物は大型ナマズやピラピチンガ、ピラニア・ナッテリー、コロソマなどの大型淡水魚で、濁った川底に潜み、獲物のエラから排泄される尿素やアンモニアを感知し、獲物のエラから体内に侵入して血液を吸うとされている。
「アンモニアに反応して人間を襲い、尿道などから侵入する」との言い伝え
アマゾンでは、「カンディルが尿素やアンモニアに反応して人間を襲い、尿道などから侵入するおそれがある」との言い伝えがあり、川を泳いでいる間に排尿しないように呼び掛けられてきた。
1929年に出版された米魚類学者ユージーン・ウィリス・ガッジャー博士の著書「ザ・カンディル」では、シングー川の源流域に居住するボロロ族の男性が着用していた「イノブド」と呼ばれる局部保護用プロテクターやバカイリ族の女性が身に着けていたプロテクター「ウルリ」について記述されている。
カンディルに襲われた患者への治療に関する記録も残されている。アマゾン川の支流マデイラ川で海軍軍医を務めたチャールズ・アマーマン医師は「患者からカンディルを除去する手術を1910年から1911年までに数回行った」と語った。
また、1941年に学術雑誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・サージェリー」で掲載された13歳男性の症例では、チブサノキの果実を尿道口の中に挿入したり、この果実でできた温かい茶を飲むといった治療法が示されている。
しかしながら、カンディルがヒトの尿道内を移動した例は科学的に検証されていない。また、長年の言い伝えに反して、ブラジル・国立アマゾン研究所(INPA)らの研究チームが2001年に発表した研究論文では、カンディルがアンモニアや魚の粘液、人尿に反応しなかったことが示されている。
先住民からの言い伝えが何度も繰り返された?
豪ジェームスクック大学のイルムガルト・バウアー博士は、カンディルに関するこれまでの学術文献などを分析し、2013年1月に学術雑誌「ジャーナル・オブ・トラベル・メディシン」で研究論文を発表した。
これによると、カンディルは、独植物学者カール・フリードリヒ・フィリップ・フォン・マルティウス博士によって初めて記述され、19世紀から20世紀前半にかけて欧州の学者や探検家らによってたびたび記述されてきた。ガッジャー博士は1930年に「アメリカン・ジャーナル・オブ・サージェリー」で2本の論文を発表しているが、自身は現地に行ったことがなく、当時入手可能であった情報をまとめたとみられる。
これらの記述は、先住民からの言い伝えが何度も繰り返されたものかもしれない。バウアー博士は「今となっては、人間がカンディルに襲われたことを証明する真の目撃者を特定することはほぼ不可能であり、『残された記述のうちのいくつかは確かに真実かもしれない』と信じるほかない」とし、「『カンディルは人間を襲う準備をして川の中で待っている』という証拠はない」と結論づけている。