最新記事

ウクライナ戦争

マリウポリ制圧でロシアが「大勝利」と言ったとき、何が起こるのか

A Propaganda Win for Russia

2022年4月25日(月)18時20分
エイミー・マッキノン(フォーリン・ポリシー誌記者)

この沿岸域とクリミア半島の間に位置する要衝のマリウポリを制圧すれば、ロシアにとっては初めての大きな戦果となる。だが払った犠牲も大きい。

「最初の1週間で制圧する予定だった。戦力では圧倒していたのに、このざまだ」。そう指摘したのは元米陸軍将校で元欧州軍司令官のベン・ホッジスだ。

一部の西側当局者の見立てでは、ロシア政府は第2次大戦の対独戦勝記念日である5月9日に何らかの戦果を披露する必要を感じ、自らにプレッシャーをかけているらしい。

「(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンは可及的速やかに、4月末までにマリウポリを掌握したい。5月9日までには一定の戦果を必要としている」。欧州某国の当局者は匿名を条件に、そう語った。

この日はロシアで極めて重い意味を持つ。あの大戦で、旧ソ連はファシズムに対抗するために2700万もの犠牲者を出した。それは正義の戦いだった。

そしてプーチン政権は今、この戦争をウクライナを「非ナチス化」する正義の戦いと位置付けている。

欧州ではどこでもそうだが、ウクライナにも一定数の極右勢力がいるのは事実。だが、決して極右の懐に取り込まれてはいない。

2019年の総選挙で極右連合が獲得した票は全体の2%程度。結果は(ユダヤ人である)ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いる与党の圧勝だった。

それでもマリウポリの制圧は、ロシア側の勝手な言い分に一定の正当性をもたらし得る。

何しろマリウポリを守るウクライナの「アゾフ大隊」は、もともと極右勢力につながる志願兵によって2014年に結成された組織。今はウクライナの正規軍に統合されているが、「アゾフ大隊の守る都市の攻略を、ロシア側が『脱ナチス化』作戦の成果として宣伝するのは確実」だと、ロシアの軍事戦略に詳しい米シンクタンク・ランド研究所のダラ・マシコは言う。

マリウポリを完全に掌握できれば、それはロシアの今後の戦争遂行能力と戦略目標の達成に大きな意味を持つだろう。

米国防総省の試算では、完全掌握後は12個大隊約8000人以上の兵士を別な場所に再配置できる。

ただし、そうした兵士の戦闘能力には疑問符が付く。前出のホッジスに言わせると、「何週間も激戦をやってきた兵士たちが、すぐ別の戦場に移ってベストな状態で戦えるとは思えない」からだ。

死者数は2万人超え?

しかしロシア軍は、既に多くの兵士を失い、士気の低下にも悩まされている。そうであれば、マリウポリの部隊をドンバス地方に転進させざるを得まい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中