マリウポリ制圧でロシアが「大勝利」と言ったとき、何が起こるのか
A Propaganda Win for Russia
この沿岸域とクリミア半島の間に位置する要衝のマリウポリを制圧すれば、ロシアにとっては初めての大きな戦果となる。だが払った犠牲も大きい。
「最初の1週間で制圧する予定だった。戦力では圧倒していたのに、このざまだ」。そう指摘したのは元米陸軍将校で元欧州軍司令官のベン・ホッジスだ。
一部の西側当局者の見立てでは、ロシア政府は第2次大戦の対独戦勝記念日である5月9日に何らかの戦果を披露する必要を感じ、自らにプレッシャーをかけているらしい。
「(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンは可及的速やかに、4月末までにマリウポリを掌握したい。5月9日までには一定の戦果を必要としている」。欧州某国の当局者は匿名を条件に、そう語った。
この日はロシアで極めて重い意味を持つ。あの大戦で、旧ソ連はファシズムに対抗するために2700万もの犠牲者を出した。それは正義の戦いだった。
そしてプーチン政権は今、この戦争をウクライナを「非ナチス化」する正義の戦いと位置付けている。
欧州ではどこでもそうだが、ウクライナにも一定数の極右勢力がいるのは事実。だが、決して極右の懐に取り込まれてはいない。
2019年の総選挙で極右連合が獲得した票は全体の2%程度。結果は(ユダヤ人である)ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いる与党の圧勝だった。
それでもマリウポリの制圧は、ロシア側の勝手な言い分に一定の正当性をもたらし得る。
何しろマリウポリを守るウクライナの「アゾフ大隊」は、もともと極右勢力につながる志願兵によって2014年に結成された組織。今はウクライナの正規軍に統合されているが、「アゾフ大隊の守る都市の攻略を、ロシア側が『脱ナチス化』作戦の成果として宣伝するのは確実」だと、ロシアの軍事戦略に詳しい米シンクタンク・ランド研究所のダラ・マシコは言う。
マリウポリを完全に掌握できれば、それはロシアの今後の戦争遂行能力と戦略目標の達成に大きな意味を持つだろう。
米国防総省の試算では、完全掌握後は12個大隊約8000人以上の兵士を別な場所に再配置できる。
ただし、そうした兵士の戦闘能力には疑問符が付く。前出のホッジスに言わせると、「何週間も激戦をやってきた兵士たちが、すぐ別の戦場に移ってベストな状態で戦えるとは思えない」からだ。
死者数は2万人超え?
しかしロシア軍は、既に多くの兵士を失い、士気の低下にも悩まされている。そうであれば、マリウポリの部隊をドンバス地方に転進させざるを得まい。