最新記事

ウクライナ

ロシア軍撤退後の民家から、地雷など、帰還後の住民をねらった罠が発見されている

2022年4月18日(月)15時30分
青葉やまと

盗めるものは盗み、そうでないものは壊す

大型で持ち去れないものは、壊すのが常套手段だ。キーウ近郊のノヴィ・ビキウ村の学校では、PCやプロジェクターなど小型機器がほぼすべて持ち出されているのが確認された。大型のプラズマTVは搬出できなかったとみえ、画面にはハサミが突き立てられている。

ウクライナ出身の政治学者であるウラジミール・パストゥホフ氏は英ガーディアン紙に対し、略奪行為は「隊員たちの補助的な動機付けとなっている」と指摘する。

ロシア人社会学者のアレクサンドラ・アルヒーポワ氏も同意見だ。「ロシア兵の多くが、この戦争は無駄で無意味なものだと感じています」と指摘する。「だから、『うちの子が家でパソコンが要るから、このパソコンを持って帰ろう』(と考えるのです)。こうすることで、無意味な状況はさして不合理なものではなくなり、より合理的となるのです。」

略奪は軍が組織的に実行か

ガーディアン紙は占領下にあった地域で数週間にわたる取材を行い、結果、異なる地域で同様の傾向を確認したという。このことから、「ロシア軍による略奪は単なる強欲な一部兵士によるものではなく、複数の町と村で展開したロシア軍の組織的な行動の一部であることを示す証拠を得た」と述べている。

これまでにも、奪った家電やPCなどを国際便で祖国に送ろうとしたなど、ロシアによる強奪の様子はたびたび報じられ、世界を驚かせてきた。キーウの人道派弁護士は、「略奪者たちの軍隊。おぞましい」とツイートした。


欧州報道機関のラジオ・フリー・ヨーロッパは、在ポーランドロシア大使館の前で4月13日に繰り広げられたデモを報じている。活動家らが掲げた風刺画には、兵士の安全よりも戦利品に目がくらむロシア市民が描かれている。風刺画の市民は、戦地に赴くロシア兵に対し、「きっと帰ってきて」ではなく「洗濯機をもって帰ってきて」と声を掛けている。

実際、ロシア兵のなかには、危険を冒して略奪に傾倒する者も目立つ。ウクライナ・インテルファクス通信によると、一部のロシア兵は防弾チョッキから防弾板を抜き取り、略奪したタブレットを空いたスペースに詰めている。

ゼレンスキー大統領は、「戦争で隣国の領土に入った数万のロシア兵たちは、ただただ(ウクライナの)生活の正常さにショックを受けたのだ」と語っている。そこには貧困がなく、十分な食糧と家財道具の整う町が広がっていた。「彼らの多くにとっては、従軍だけが社会的地位を高める装置であり、人生で少なくとも何かを得る機会なのだ。」

ウクライナの人々からすれば、たまったものではないだろう。1ヶ月以上を経て戻った自邸は好き放題に荒らされ、車のドアを開けるにも危険が伴う。ロシア軍は再びキーウに向かう動きをみせており、人々の心労は尽きることがない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中