最新記事

ウクライナ戦争

ロシア軍新司令官「シリアの虐殺者」は何者か 経歴、戦歴、東部戦線の見通し

Brutal New Commander

2022年4月18日(月)16時25分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)、エイミー・マッキノン(フォーリン・ポリシー誌記者)

220426P30_SSR_01.jpg

親ロシア派武装勢力が港を制圧したと主張するマリウポリでは厳しい戦況が続いている(4月11日) CHINGIS KONDAROVーREUTERS

その後ロシア中央軍管区の参謀長に上り詰め、2015年にプーチンのお声掛かりでシリアへの軍事介入を指揮する司令官に抜擢された。

シリア内戦はロシアの介入で潮目が変わり、崩壊寸前だったバシャル・アサド大統領率いる現政権がしぶとく息を吹き返した。

介入の初期にはロシア空軍と政権側の地上部隊の連携がうまくいかず、反政府派の実効支配地域を切り崩せなかったが、ドボルニコフが指揮した主要都市への包囲攻撃で戦況は一変した。

「介入の初期段階は失敗だったと言っていい。ロシアの激しい空爆にもかかわらず、政権側は何カ月も支配地域を拡大できなかった」と中東問題研究所の上級研究員、チャールズ・リスターは言う。

「当初ドボルニコフは古風な戦闘スタイルを強いられた。敵が近づけない遠距離からの爆撃に徹する、ほとんど中世のような戦い方だ」

だがその後、ドボルニコフは劣勢に追い込まれて士気を失った政権側の部隊を立て直した。

さらにロシアの特殊部隊を、アサド政権支援のために参戦したレバノンのイスラム過激派組織ヒズボラと連携させたと、リスターは言う。特殊部隊とヒズボラに傭兵も加えた雑多な助っ人部隊をうまくまとめたおかげで、政権側の攻撃力は一気に高まった。

ドボルニコフはトップダウン方式とは異なる、「自律的な即応部隊」による機動性の高い作戦行動が有効だと、2015年に軍事ジャーナルに寄稿した論文で述べている。

「彼は有能な指揮官であると同時に、非常に想像力豊かだと評価されている」と、イギリス王立防衛安全保障研究所(RUSI)のマーク・ガレオッティ上級研究員は言う。

ドボルニコフはシリアで残虐な空爆を指揮した。第2の都市アレッポを破壊し尽くし、人道支援物資を運ぶ国連機関の車列を爆撃して、北西部イドリブ県ではほぼ毎日、学校や病院を攻撃した。

新しい司令官の登場とともに、ロシアの軍事作戦はさらに残忍な段階に進むと予想されるが、それはドボルニコフという人物に直接、関係するわけではないかもしれない。

「ドボルニコフがある種のソシオパス(社会病質者)かどうかということではなく、ロシアの戦い方の問題だ」と、ガレオッティは指摘する。

ロシア軍はドンバスの戦況を打開するために大規模な地上作戦に向けて再編成を行い、一部の部隊を補給と再装備のためにいったんロシア西部とベラルーシに移動させている。

ただし、ドボルニコフの登場によって指揮系統と兵站の問題が直ちに解決することはないと、西側諸国はみている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中