「夫は頭を撃たれ、切られ、拷問された」 キーウ近郊ブチャでの惨劇
ロシア軍はブチャに入ると、住民に対して身元を明らかにし、書類を提示するよう求めたという。
タチアナさんは、チェチェン共和国出身と思われるロシア軍の兵士から「切り刻む」と脅されたという。この兵士がチェチェン出身だと分かった理由は説明しなかった。
4日後に解放されたが、夫は何日間か居所が分からなかった。だが、住居がある建物の地下の階段の吹き抜けに何体かの遺体があると知らされた。
「スニーカーとズボンで夫だと分かったの。ひどい切り傷を負っていて、冷たくなっていた」という。「近所の人がまだ夫の顔写真を持ってるのよ。頭を撃たれ、切られ、拷問されていた」──と語った。
ロイターが写真を確認したところ、顔や体に重い切創があった。弾丸による傷の有無は、確認できなかった。
タチアナさんは夫の遺体を取り戻し、近所の人たちと建物近くの庭に「犬に食べられない程度の深さに」埋めた。
タチアナさんの夫が発見された階段の吹き抜けにロイターの記者が行くと、まだ、別の遺体があった。住民が尊厳の印として遺体をベッド用シーツで覆っていた。
左目を撃たれた
女性の住民によると、すぐ近くの別の墓には男性2人の遺体が埋葬されている。2人はロシア軍に連行されたが、殺されるところは目撃していないという。遺体が発見されたとき、2人は左目を撃ち抜かれていた。墓の近くに集まった他の住民6人が女性の証言を裏付けた。
住民の1人は、遺体となった男性の1人が集合住宅の入居者で、ウクライナ軍の退役軍人だったと述べた。
ブチャは2月24日のロシアによるウクライナ侵攻直後、ロシア軍がチョルノービリ(チェルノブイリ)原発を占領し、首都に向かって南下してきた際に占領された。
北西から侵攻してきたロシア軍は、ブチャとその近くのイルピン北部でウクライナ軍からの予想外に激しい抵抗に遭い、進軍を阻まれた。この地域は、ロシア軍がキエフの北方から撤退するまで、首都防衛戦で最も血生臭い戦闘が繰り広げられた場所だ。
ウクライナは2日、キエフ周辺の全地域を奪還し、ロシア侵攻後初めて首都圏を完全に掌握したと発表した。
3日のブチャは、道路に不発弾が散乱し、焼け落ちた戦車の近くではロケット弾が地面に突き刺さっていた。敷地内で地雷やミサイルが見つかり、壁にチョークで「地雷に注意」と書いた住民もいる。
住民のボロドミル・コパチョフさん(69)によると、ロシア軍はコパチョフさん宅の庭の隣にある空き地にロケットシステムを設置した。ロイターの記者がその場所を取材すると、弾薬の箱や使用済みの薬莢(やっきょう)が散乱していた。
コパチョフさんの33歳の娘と、そのボーイフレンド、友人の3人
は、ロシア軍が撤退する数日前に、パーティー用の紙リボンをロシア軍に向けて投げて射殺されたという。コパチョフさんの妻によると、兵士に危害を加えるつもりはなく、抵抗を示すためだったという。
コパチョフさんは「こんな目に遭うなんて、辛すぎる」と話した。この1カ月、家の敷地から出たことはない。「やつらは出合い頭に(人々を)撃っていた。『だれだ、なぜ外出している』と聞きもしなかった。ただ、撃っていたんだ」──。
(Simon Gardner記者)
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