最新記事

NATO

フィンランドのNATO加盟はプーチンに大打撃──ウクライナ侵略も無駄骨に

How Finland Could Tilt the Balance Against Putin

2022年4月15日(金)08時39分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)

NATOに加盟申請するかどうか早急に決めると言ったフィンランドのサンナ・マリン首相 Ludovic Marin/ REUTERS

<ウクライナを取りに行ったせいでフィンランドがNATOに加盟するのは完全な誤算、プーチンの立場も危うくなるが、米ロ対立の新たな火種にもなりかねない>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ東部への大攻勢を準備するなか、西側の戦略家は一貫して、停戦交渉の落としどころはウクライナの「フィンランド化」、言い換えれば「強いられた中立化」になる可能性があると見てきた。

ところが、そのフィンランドが中立の立場を捨てて、西側の軍事同盟に加わる動きを見せ、プーチン大統領に手痛い失点をくらわそうとしている。

フィンランドのサンナ・マリン首相は4月13日、スウェーデンのマグダレナ・アンデション首相との共同記者会見で、冷戦終結後一貫して維持してきた中立政策を転換し、NATOに加盟申請をするかどうかを「数カ月ではなく数週間」で決めると明言した。

同じ日にNATO加盟の見通しを詳述した新たな防衛白書がフィンランド議会に提出され、同国のアンティ・カイッコネン国防相は首都ヘルシンキで行なった記者会見で、フィンランド軍は既に「NATO軍との相互運用の基準を完全に満たしている」と述べた。

スウェーデン政府もフィンランドと共同歩調を取り、NATO加盟を早急に検討すると発表した。

「ロシア包囲網」が完成

NATO加盟には現在の加盟国30カ国の全会一致の承認が必要なため、申請が受理されるには最長で1年程度かかる。それでも伝統的に防衛協力を2国間に限定してきたフィンランドとスウェーデンがそろってNATOの集団安全保障体制に入れば、地域全体のパワーバランスが一気に激変するのは確実だ。

ロシアのウクライナ侵攻から2カ月近く、西側の戦略家の間ではプーチンの暴挙は止められないとの見方が広がりつつある。ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊からのロシア軍の撤収に続き、プーチンは今週、東部ドンバス地域で新たな、そしておそらくは極めて残虐な攻撃を開始するとの警告を発し、停戦協議は「行き詰まっている」と述べて、ウクライナを力ずくで屈服させる決意を見せた。

一方、アメリカからドイツまで西側各国は今一つ腰が定まらない。さらなる制裁でロシアを締め上げ、ウクライナにさらに強力な攻撃兵器を提供する必要があることは明らかだが、それに伴う政治的なリスクをどこまで受け入れるかは容易に結論が出ないからだ。

そうした状況下で、ウクライナ侵攻を正当化するためにプーチンが力説する「NATOの脅威」が、軍事力と地政学上で急拡大しようとしている。トルコがNATOの勢力圏の南を、バルト諸国がロシアとNATOの東の境界線の中央を守り、さらにフィンランドとスウェーデンが北を固めるとなると、プーチンとその取り巻きが警戒し続けてきた「西側のロシア包囲網」が完成することになる。「フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟すれば、北欧の安全保障環境が根本的に変わるのは確実だ」と、米シンクタンク・戦略国際問題研究所のショーン・モナハンは断言する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中