プーチンと習近平が「国益を捨てて」暴走する原動力は、欧米への「承認欲求」
PUTIN AND XI’S IMPERIUM OF GRIEVANCE
西側への恨みと自由と民主主義への嫌悪が2人を結び付ける MAXIM SHEMETOVーREUTERS
<ウクライナ侵攻も台湾併合の野心も、国益的には「損」なはず。それでも彼らが暴走する背景には「リスペクトされていない」という恨みと怒りがある>
ネットのニュースでロシアのウクライナ侵攻を知った私は、その衝撃も冷めやらぬうちにそれに追い打ちをかけるようなメールを受け取った。ニューヨークのカーネギーホールで行われるウィーン・フィルの公演のチケットを予約していたのだが、ロシアのプーチン大統領と親交があることで知られる指揮者のワレリー・ゲルギエフがこの公演から外されることになったというのだ。
ロシアが侵攻を開始するまでは西側が中国、ロシアと完全なデカップリング(経済・外交関係などの切り離し)に踏み切ることなどまず考えられなかった。だが「ゲルギエフ外し」が物語るように、中国とロシアが新たな「同盟」を結んだ今、中ロと西側との亀裂は広がり、文化交流から貿易まであらゆるものが切り離されようとしている。
ウクライナ侵攻以前は、EU、特にドイツがロシアの天然ガスという輸血針を引き抜くことなどないとみられていた。大量の「血液」を送り込むパイプライン、ノルドストリーム2を手放すはずがない、と。アメリカも安価な中国製品への依存を断ち切れるはずがないと考えられていた。
グローバル化の最盛期、「ウィンウィンの関係」で世界中が豊かになれるという楽観論が幅を利かせていた時代には、グローバルなサプライチェーンが人類に限りない恩恵を与えると信じて疑わなかった。だがプーチンがウクライナ侵攻を命じ、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が台湾併合による国家再統一を誓うなか、国際秩序は揺らぎ、市場は大混乱に陥り、緊張緩和に役立つはずの文化交流まで断ち切られようとしている。
プーチンと習の重要な共通点が
一体何がこの予期せぬ危険な脱線事故を引き起こしたのか。なぜプーチンはロシアの国益をかなぐり捨てて、かつての兄弟国を侵略したのか。なぜ習は、自国民が成し遂げた奇跡の経済成長を犠牲にしてまで、小さな島国の奪取に血道を上げるのか。各国経済が切り離し難く結ばれている今、一体何のために、この2人の現代の「専制君主」はこれほど多くの主要国を遠ざけてまで自滅の道を突き進むのか。
まず言えるのは、独裁者は政治的なチェック&バランス(抑制と均衡)に縛られず、好き勝手に振る舞えるということだ。その病的な認知のゆがみが意思決定に影響を及ぼしても、誰も止められない。プーチンと習は出自も性格も異なるが、重要な共通点がある。情緒不安定かつ偏執的で、西側の「大国」に自国が虐げられてきたという被害妄想じみた歴史観に凝り固まっている。