最新記事

ウクライナ侵攻

ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ

Shocking Lessons U.S. Military Leaders Learned by Watching Putin's Invasion

2022年3月3日(木)18時56分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

ロシアのウクライナ侵攻に抗議して、ウクライナの国旗色に塗られた第2次大戦中のソ連軍の記念碑(2月27日、ブルガリアの首都ソフィア) Spasiyana Sergieva-REUTERS

<ウクライナ侵攻の最初の3日間でわかったことは、ロシア軍が西側の脅威にはなりえないほど弱かったことだ。しかしそれは同時に、プーチンを追い詰め過ぎると本当に核兵器を使いかねない恐怖と隣り合わせになったということだ>

ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻で明らかになったこの事実は、パラダイムシフト的な驚きをもたらし、ロシアの実力、脅威、そして国際舞台におけるロシア政府の将来に対する西側諸国の見方を一変させるだろう。

戦闘開始からわずか1日で、ロシアの地上軍は当初の勢いをほとんど失った。その原因は燃料や弾薬、食糧の不足に加え、訓練や指導が不十分だったことにある。ロシアは陸軍の弱点を補うために、より離れた場所から空爆、ミサイル、砲撃による攻撃を行うようになった。プーチンは核兵器を使う可能性をちらつかせて脅したが、これはロシア軍の通常戦力が地上における迅速な侵攻に失敗したからこその反応だと、アメリカの軍事専門家は指摘する。

他の軍事専門家からは、ロシア本土から完全な準備を整えて侵攻したロシア軍が、隣接する国でわずか数十キロしか進めなかったことに唖然としたという声もあがった。ある退役米陸軍大将は、本誌に電子メールでこう述べた。「ロシアの軍隊は動きが遅く、その兵力はなまくらだ。そんなことは知っていた。だが最小限の利益さえ達成する見込みがないのに、なぜ地球全体の反感を買う危険を冒すのか」。この陸軍大将は、ロシア政府が自国の戦力を過大評価していたという説明しかないと考えている。

ロシア軍の実態が露わに

「ロシアの軍事に関する考え方は、第二次大戦時に赤軍を率いて東欧を横断し、ベルリンに攻め入ったゲオルギー・ジューコフ元帥のやり方が中心にあると思う」と、元CIA高官は本誌に語った。ジューコフは、「大砲を並べ、...諸君の前方にあるものすべてを破壊せよ」と命じたという。「そして生存者を殺すか強姦するために農民兵士部隊を送り込んだ。ロシア人は繊細ではない」

短期的には、ウクライナにおけるロシアの軍事的失敗は、核兵器使用の可能性を含む戦争拡大の脅威を増大させる。だが長期的に見れば、戦いが拡大することなく、ウクライナ紛争を食い止めることができれば、ロシアを軍事的脅威と見る必要はなくなる。今回明らかになったロシアの通常兵力の弱さは、米政府内部の専門家を含む地政学的ストラテジストがロシアを脅威と見ていた多くの前提を覆すものだ。

アメリカと西側諸国にとって、ロシアのウクライナ侵攻のつまずきはソビエト連邦崩壊を思い起こさせる。ソ連の経済の崩壊と政治的・人的基盤の脆弱さが阻止できないほど強力と思われていた軍事力に隠されていたことが露わになった瞬間だった。30年後の今、当時の教訓はほとんど生かされていないようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IMF、金融安定リスク大幅拡大に警鐘 貿易巡る混乱

ワールド

米国務省を抜本再編、トランプ政権 無駄な部署廃止=

ワールド

中国外相、英・EUに多国間貿易体制擁護呼びかけ 米

ワールド

米、インド向けエネルギー・防衛装備の販売拡大を検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「利下げ」は悪手で逆効果
  • 4
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 5
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 7
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中