最新記事

ウクライナ情勢

「みんなトラウマになる」「この臆病者を見ろ」「どこの国境でも人種差別」...ウクライナ難民ルポ

SEEKING SANCTUARY

2022年3月18日(金)18時40分
ダイアン・ハリス、ファトマ・ハレド、ハレダ・ラーマン

220322P24_LPO_04.jpg

キエフを離れる列車の中で涙を拭う女性(3月1日) DIEGO HERRERA-EUROPA PRESS/GETTY IMAGES

米プリンストン大学の人類学者ジョン・ボーンマンは、2015年にドイツへ逃れたシリア難民の新たな環境への適応を調査した経験を踏まえ、難民の危機的状況は時とともに薄らぐ可能性を示唆する。

だが彼のように楽観する人は少なく、ほとんどの人は深刻に懸念している。これだけの数の人を、果たして欧州諸国は受け入れ、住む場所と食べ物を用意し、適切な医療を施し、いずれは職を与えることができるのかと。

ランド研究所のリースらは、EUやNATO加盟諸国が取るべき次の一手は大規模自然災害に備えて用意してある対策の発動だと言う。

実際、ワシントン・ポスト紙の報道によれば、スロバキアは先に国家非常事態を宣言し、難民の受け入れに必要な施設などの整備に必要な資金をすぐ拠出できるようにしている。

国内の難民支援団体に補助金を出し、今後の人道支援に必要な膨大な資金の手当てをしておくことも大切だ。既にUNHCRは各国に、ウクライナ支援に17億ドルの拠出を要請している(うち11億ドルは国内避難民向け、残りは難民向け)。

UNHCRのグランディは言う。「今は受け入れ国の政府も自治体も、そして住民も難民に対する強い連帯を表明し、温かく迎え入れている。(だが)今後は、より一層の支援と保護が必要になるはずだ」

長い目で見れば、ウクライナから来た人たちが現地の社会に溶け込むのを支援する方策も必要だ。

一般論では、難民は祖国への帰還を望むが、現実は違う。ランド研究所の調査によれば、紛争が終わっても帰国する難民は全体の3分の1にも満たない。

そうであれば、ウクライナ難民も祖国へ帰らず、(それが彼らの望むところかどうかは別として)そのまま最初の受け入れ国に定住する可能性が高い。そうなった場合、私たちは一時的な善意や同情で「住まわせてやる」のではなく、共に暮らしていくすべを学ばねばならない。

それが難民にとっても、難民を受け入れるヨーロッパ諸国の人々にとっても、最も難しい課題となるだろう。

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 6
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中