最新記事

ウクライナ情勢

「みんなトラウマになる」「この臆病者を見ろ」「どこの国境でも人種差別」...ウクライナ難民ルポ

SEEKING SANCTUARY

2022年3月18日(金)18時40分
ダイアン・ハリス、ファトマ・ハレド、ハレダ・ラーマン
キエフ近郊のイルピン

首都キエフ近郊のイルピンで破壊された橋の下を通り、川を渡って避難しようとする人々(3月5日) AP/AFLO

<第2次大戦後で最大規模の難民が世界を揺さぶっている。困難への同情ばかりではない。将来的な定着と共生に、受け入れ国はどう対処するのか>

10万、20万、いやもっと多くの人が毎日、国境に詰め掛けている。バスや列車で、自動車で、あるいは徒歩で。そして身を切る寒さのなか、悪くすれば60時間も入国審査で待たされる。

侵攻したロシア軍による破壊と殺戮を逃れてきたウクライナの人たちは、まず隣接するポーランドやハンガリー、ルーマニア、モルドバ、スロバキアに入る。そこにとどまる人もいれば、さらに遠くへ旅を続ける人もいるだろう。

いずれにせよ途方もない数だ。開戦からわずか2週間で200万以上の人が家を捨て、安全な外国を目指している。国連の予測では、その数は遠からず400万を超えるはずだ。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のフィリッポ・グランディ高等弁務官は、これが今世紀最大の難民危機に発展することを危惧し、2月末に開かれた国連安保理の緊急会合でこう訴えた。

「私はもう40年近く難民保護の活動に携わってきたが、こんなに急ピッチで人数が増える事態はほとんど見たことがない。少なくともヨーロッパでは(8年間で200万~300万人の難民を出した)バルカン戦争以来の事態だ」

むろん、少なくとも今のところ、ウクライナから逃げてきた人たちは温かく受け入れられている。

EU本部はウクライナからの難民を喜んで受け入れると表明。EU史上初めて、加盟諸国での最長3年間の滞在を認め、就労も認める措置を導入すると決めた。

欧州委員(内務担当)のイルバ・ヨハンソンも、「何百万もの人がEU域内に流入してくる可能性があり、私たちには彼らを適切に保護し、その権利を保障する責任がある」と語っている。

だが長い目で見れば懸念もある。なにしろヨーロッパは第2次大戦以降、こんなに多くの難民を受け入れた経験がない。

結果として、いずれ受け入れ国で政治的・経済的な問題が生じ、難民に対する反発が高まる可能性は否定できない。

「甘く考えてはいけない」と、ヨハンソンはクギを刺した。「これだけの数の難民を受け入れるとなれば、相当な覚悟が必要だ」

戦える年齢の男性は国内にとどまるよう求められているが、遠からずウクライナに住む人の1割前後が国外へ逃れることになるだろう。EUとの協定で、ウクライナのパスポートを持つ人はビザなしでも最大90日はEU加盟国に滞在できることになっている。

だが、問題はその先だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英春季財政報告、財政先行きの厳しさ反映=ムーディー

ビジネス

2月鉱工業生産速報は前月比+2.5%=経済産業省(

ビジネス

2月小売業販売額は前年比+1.4%=経産省(ロイタ

ビジネス

相互関税、全ての国が対象に=トランプ米大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中