最新記事

南シナ海

中国、南シナ海で新たに3環礁を軍事基地化 米比は合同軍事演習を過去最大規模で実施へ

2022年3月27日(日)19時35分
大塚智彦

南シナ海は中国が一方的に海洋権益を主張し「九段線」なる境界線を設定して自国の権益が及ぶ海域としている。このためフィリピン、マレーシア、ベトナムなどと領有権問題が生じている。

こうした事実を背景にフィリピンは2024年にオランダ・ハーグの「常設仲裁裁判所」に対して仲裁を訴えた。そして2016年7月に同裁判所が「九段線」内の海域に対する中国の「主権主張は国際海洋法などの法的根拠がなく、国際法違反である」との裁定を下した。

しかし中国政府は裁定を「受け入れず、認めない」として無視し続け、国際社会を無視して環礁などに建造部を建設し、兵士とみられる住民を住まわせるなどして「実効支配」を続けている。

こうした中国の身勝手な対応と一方的な海洋権益の主張、環礁などの実効支配の継続には欧米豪などが強く反発し、「九段線」海域内の海域、空域での海軍艦艇の航行や空軍機の飛行を繰り返し「自由の航行作戦」を継続している。

最近の米軍の報告では南シナ海にあるミスチーフ礁、スビ礁、ファイアリー・クロス礁で中国が対空ミサイルや戦闘機などの配備が完了し、完全な軍事基地としての機能をもつようになったとしている。

米軍関係者は「3つの環礁は完全に軍事基地化され戦闘機や爆撃機も離発着可能で、対空ミサイルによる防空システムも完備しており、周辺国にとっては脅威である」と警告している。

米同盟国としてのフィリピンの今後

フィリピンは長い期間、米の同盟国として国内にスービック海軍基地、クラーク空軍基地などに大規模な米軍が駐留していた過去がある。

しかし1991年に両基地に近いルソン島中部のピナツボ火山が爆発し、噴煙などで両基地に甚大な被害がでたことや、支援を求めたフィリピンに米側が難色を示したことなどが重なり、当時のコラソン・アキノ大統領の意向に反してフィリピン議会が米軍駐留の法的根拠となる法案を否決したことから米軍の撤退が決まった経緯がある。

しかしその後も同盟関係は維持され、VFAなどで米軍は対テロ作戦の演習などに部隊をフィリピンに派遣するなどして良好な関係を築いてきた。

こうしたなかで、5月で任期を終える現在のドゥテルテ大統領は2016年の就任以来中国寄りの政権運営を行い、2018年9月には大統領就任直後のオバマ米大統領に対して売春婦の息子を意味する言葉で侮辱し「オバマ大統領は何様なのか、私はアメリカの手先ではない」と言い放ち、一時両国関係は冷却化したこともあった。

一方で地政学的な部分ではフィリピンにとって米軍の存在は不可欠であり、中国の南シナ海進出という危機によって米比両国はそのの同盟関係を再認識しつつある。こうしななかで起きたロシアのウクライナ侵攻が過去最大規模の軍事演習「バリカタン」実施とつながった。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中