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「インターネット上で最も恐ろしい動画かもしれない」1300万再生の短編ホラー『The Backrooms』

2022年2月9日(水)14時50分
青葉やまと

ネットの怪奇譚にヒント

本作品は、ネット上の有名な都市伝説『The Backrooms(バックルーム)』の逸話を映像化したものだ。この逸話の発端は、2019年に海外の匿名掲示板に投稿された奇妙な画像にまで遡る。

問題の画像はとある室内が写ったものであり、オフィスとも迷路ともつかぬ空間、キッチュな壁紙、不揃いな高さの隔壁、黄ばんだ照明、微かに傾いたカメラアングルなどが確認できる。問題とまではいえないがどこか確実に不自然な、些細な不可解さに溢れていたことでネットユーザーたち好奇心を刺激した。

画像が拡散すると一部のユーザーたちから、この場所に見覚えがあるとの報告が上がるようになる。複数の階層があったとの報告や、階ごとに異なる広さと建材、そして各階には番犬と呼ばれるモンスターが潜んでいる、などだ。バックルームからの「生還者」を名乗る人々からの虚実入り混じった報告が、都市伝説としての世界観を形成していった。

バックルームを題材にした動画やゲームタイトルなどがこれまでに複数制作されており、本作はこの有名なネット奇譚を新たな切り口で描くものとなる。

16歳アーティストが手がける

作品を制作したのは、ケーン・パーソンズの名で活動する16歳のVFX(特殊効果)アーティストだ。前述の脚本家のヘラーマン氏は、「16歳が制作したと知って度肝を抜かれた」と打ち明けている。

VFX映像を本業とするパーソンズ氏だが、本作では単にリアルな映像を展開するだけでなく、効果的なストーリーテリングの手法を盛り込むことで完成度を高めた。一例として、安易に書かれた脚本の場合、登場人物のセリフで状況を説明し尽くそうとしがちだ。本作では逆に会話を極限まで削ぎ落とすことで、観る者の想像力と恐怖心を掻き立てている。

その手腕に気づいた視聴者も多いようだ。あるユーザーはYouTube上のコメントに、「誰か、この少年に未来を。ミニマルなセリフ、(見慣れたはずの空間が違和感を醸し出す)リミナルスペース、丁寧に作り込まれたムードとスタイル、ストーリーを『語る』のではなく『見せる』というテクニック」など作品に込められた技術を指摘し、映画作りの原則をきちんと踏襲した秀作だと評価している。

作者のパーソンズ氏は順次関連作品をアップロードしており、現時点で計5本の動画を確認できる。バックルームが形成された過程や、訪れた者たちの身に起きたことがらなど、90年代に起きた怪奇現象の詳細が徐々に紐解かれてゆくようだ。気鋭のVFXアーティスト兼映像監督として、今後も緊迫の作品を放ってくれることだろう。

The Backrooms (Found Footage)

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