ロシアの脅威に目を奪われるのは間違い──最優先で警戒すべきは、やはり中国だ
AMERICA IS FOCUSING ON THE WRONG ENEMY
バイデンと中国の習近平主席の初のオンライン会談(昨年11月) JONATHAN ERNSTーREUTERS
<ウクライナ危機もあってバイデン政権はロシアの脅威に目を奪われているが、アメリカ最大のライバルは中国であり、中ロ関係の深化で中国はさらに強くなる>
民主主義陣営の国々は引き続きアメリカ主導の国際秩序が保たれることを望んでいる。だが「戦略的な過干渉」とも言うべきアメリカのウクライナ政策を見ると、この秩序の継続は危ういと言わざるを得ない。
国際社会におけるアメリカの指導的な地位を脅かしている第1の要因は国内の政治状況だ。党派政治と分断がアメリカの民主主義を劣化させ、長期的な視野に立つ政策立案を妨げている。外交政策では民主党と共和党で自国にとっての脅威の認識が全く異なる。2021年3月の世論調査によると、共和党員は中国が最大の脅威だと答え、民主党員はロシアを最も警戒していた。
バイデン米大統領が「ならず者国家」ロシアを対等なライバルと見なし、まともに対峙しているのはそのためかもしれない。アメリカの真のライバルは中国だ。中国の人口はロシアの10倍。経済規模もほぼ10倍で、防衛予算はロシアの約4倍に上る。
冷戦後、アメリカは勝利の余韻にどっぷり浸り、自国の優位を誇示することにうつつを抜かした。NATOをロシアの裏庭まで拡大しようとする一方で、第2次大戦後にドイツと日本を取り込んだようにロシアを民主主義陣営に取り込もう、とはしなかった。アメリカににらまれれば、必然的にロシアは軍備増強に走ることになる。
アメリカの指導者たちは冷戦後にもう1つ致命的なミスをした。中国の台頭を助け、旧ソ連以上に強大なライバルに仕立て上げたのだ。残念ながらアメリカはいまだにこの失敗から学ばず、ロシアと中国に加えて中東、アフリカ、朝鮮半島と極めて幅広い地域の問題に関心と資源を分散させている。
プーチンをたたけば習が得をする
その結果、アメリカは意図せずして中国の覇権拡大を助けることになった。中国を最も利するアメリカの政策は制裁の多用だ。
ロシアと中国は長年付かず離れずの関係を保ってきたが、14年のクリミア併合でアメリカがロシアに経済制裁を科すと、ロシアのプーチン大統領は戦略的に中国に擦り寄った。ウクライナ情勢がどう転んでも中ロ関係は深まるだろうが、ロシアがウクライナに侵攻しアメリカが厳しい制裁を科せば、中ロの絆は一層深まり、中国が多大な恩恵を受けるだろう。
バイデンが警告どおりロシアに強力な金融制裁を科せば、中国はロシアの銀行との取引を増やし、人民元の国際化を推進できる。またバイデンがロシアとドイツを結ぶ天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働開始に待ったをかけたら、中国がロシア産ガスを爆買いするだろう。