コロナ飲み薬モルヌピラビル、米国では「最後の選択肢」に
米メルクが開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「モルヌピラビル」は一時期、コロナ治療を一変させると期待された。しかし米国の関係者らによると、今では入手可能な治療法4種類の中で「最後の選択肢」と位置付けられるようになっている。写真はモルヌピラビルのカプセル。メルクが2021年10月提供(2022年 ロイター)
米メルクが開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「モルヌピラビル」は一時期、コロナ治療を一変させると期待された。しかし米国の関係者らによると、今では入手可能な治療法4種類の中で「最後の選択肢」と位置付けられるようになっている。有効性の低さと、安全面での潜在的なリスクがその理由だ。
米国で最も需要が大きいのは米ファイザーの飲み薬「パクスロビド」で、2番人気は英グラクソスミスクラインの中和抗体点滴薬「ソトロビマブ」。
両者は供給がひっ迫しているため、オミクロン変異株による感染者急増に直面している医師らは米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「レムデシビル」を利用する場合もある。レムデシビルは、リスクの高い新型コロナ患者の入院を防ぐためには1日に3回投与する必要がある。
メルクと共同開発企業リッジバック・バイオセラピューティクスは昨年遅く、モルヌピラビルが入院のリスクを半減させるとの初期データを発表。家庭で使える最初の薬として、新型コロナ治療に風穴を空けると期待された。
しかし完全なデータで有効性が30%程度にとどまることが分かると熱気はやや冷め、パクスロビドが入院リスクを90%下げることが示されると、さらに期待はしぼんだ。ソトロビマブとレムデシビルは入院リスクをそれぞれ85%と87%下げることが示されている。
米保健福祉省のデータによると、米国ではこれまでにパクスロビドが26万5000コース分、モルヌピラビルが110万コース分配布されている。初期データでは、全国の薬局や病院の棚には数十万コース分のモルヌピラビルが眠っている。
ロサンゼルス南部と中部の公衆衛生センター網、セント・ジョンズ・ウェル・チャイルド・アンド・ファミリー・センターのジム・マンジャ所長は「メルクの製品(モルヌピラビル)は有効性が30%しかないので使っていない」と語る。連邦政府から受け取ったモルヌピラビル200コース分を貯蔵し、パクスロビドの新規供給を政府に要請しているという。
ロイターは6カ国以上で12を超える医師、医療システム、薬局に取材。大半はモルヌピラビルについて、より有効な選択肢が使えなかったり入手できなかったりする場合を中心に、限定的にしか処方していないと説明した。
米国の医師の間でモルヌピラビルが最後の選択肢と位置づけられていることについてメルクに聞いたところ、実臨床データと臨床試験データが増えるにつれて、需要は高まるだろうと回答。同社の世界医療問題責任者、エリアブ・バール氏は「今後数週間、数カ月間に、人々に必要な情報を提供するための教育が大いに必要になる」と述べた。