ロシア暗号放送が電波ジャックされ、江南(カンナム)スタイルを奏でる
ウクライナ侵攻の可能性への抗議の電波ジャック? David Marugan-YouTube
<スパイ向けの指令ともいわれるラジオ放送から、突然のダンスナンバー。愉快犯による電波ジャックから緊迫のウクライナ情勢と絡めた説まで、さまざまな推測が飛び交った>
ロシアで最も不可解な短波ラジオ局のひとつに、「UVB-76」がある。1982年から放送を続けており、奇妙なことに放送内容はほぼ「ブーッ......ブーッ......」という短いブザー音のみだ。ときおり人の声が入り、数字や人名などを読み上げる。その目的は謎に包まれており、ロシアスパイへの秘密指令用とも、終末に備えた核の制御コードとも囁かれている。
このミステリアスな放送局が1月、突如として奇妙な振る舞いに走りはじめた。最初の異変が秘密通信の愛好者たちを驚かせたのは1月15日のことだ。それまで数秒置きに単調なブザーを鳴らしていた同局が、不意に『江南(カンナム)スタイル』を放送した。同曲は2012年に世界的ブームを巻き起こした、いわずと知れたK-POPのヒットソングだ。
秘密めいた短波ラジオとダンスナンバーの場違いな組み合わせは、世界に混乱と冷笑をもたらした。カナダのヴァイス誌は、「乱数放送局のUVB-76が、ロシア諜報部隊の通信手段と疑われる存在を一時休止し、『江南スタイル』を響かせる」として取り上げ、突然の異状を報じた。
UVB-76 'The Buzzer' 4625 kHz: Oppan Gangnam style
ロシア国営通信のスプートニクでさえ混乱した模様で、「これは世界の終末か、はたまた海賊放送がパーティーの準備をしているのか?」と訝しむ。
数日後に混乱再び ウクライナ情勢での抗議目的か
放送から5日後となる1月20日になると、さらに手の込んだ乗っ取りが発生する。放送された音源を周波数帯ごとの成分を可視化するソフトウェアで分析したところ、音域の分布図を利用する形で、ネットで有名な画像ネタが仕込まれていたことがわかった。
見る者を苛立たせるようないわゆる「ドヤ顔」として有名な「トロールフェイス」の図案や、映画『Vフォー・ヴェンデッタ』から派生した仮面の画像などが検出されている。放射線管理区域を示す記号もみられた。
一連の不可思議な放送内容は話題を呼んだが、暗号放送局がなにか特異なメッセージを発信しようとしていた可能性は低いようだ。第三者が興味本位で電波ジャックしたものとみられている。放送は現在復旧し、再び単調なブザー音を送り出している。