最新記事

中国経済

北京冬季五輪は習近平式「強権経済」崩壊の始まり

China’s Economy Is Heading Toward Stagnation, Not Collapse

2022年2月3日(木)18時40分
ダイアナ・チョイレーバ(英調査会社エノドエコニミクスの主任エコノミスト)

共産党の要求を満たすために、苦労して手に入れた利益を好きな時に使えない、あるいは取り上げられるなら、そもそも成功を目指す意味はあるのか。功績を認められないのに、努力して金メダルを取ろうとする人はほとんどいないのと同じだ。

中国の開発モデルが成功する上で最も重要なもう一つの要素は、鄧小平の言葉を借りれば「石を探りながら川を渡る」こと。つまり試行錯誤を繰り返しながら政策を発展させるやり方だ。中国は特定の改革の目的について幅広い合意が得られた後、「試しにやってみる」ことでイニシアチブや改革を生み出してきた。

各種政策を省レベル、さらには全国に展開する前に、地元レベルで試験運用を行い、実験を奨励し、それぞれの現場に合わせた解決策を探ることで、中国は最善の道を見出してきた。中国が今後、ますます複雑化し、不透明さを増しつつある状況の中で成功するためには、この点で妥協することは許されない。

2008には「開かれた中国が歓迎します!」だった

だが中央に権力を集中させ、国家統制を強化する習近平のやり方により、中国の開発モデルはトップダウン型に振れつつある。地方での試験運用は、ごく一部の例外を除いて検討もされない。粛清の繰り返しが政治的な疑心暗鬼を生み、地元当局者たちは既成の枠からはみ出すことを恐れている。そんなことをして政敵につけ込まれれば、キャリアが終わってしまうからだ。

そして米中の地政学的な対立はピークに達するなか、中国政府は実験的な方法を続ける時間的余裕などないと感じている。習の容赦ない腐敗取り締まりと、中国の台頭を封じ込めようとするアメリカの組み合わせが、試行錯誤の妨げになっているのだ。

2008年の北京夏季五輪に向けた初期のスローガンは「これまで以上に開かれた中国が、皆さんを歓迎します!」だった。中国がWTOに加盟した2001年、中国のある政府高官は、オリンピックは中国をより良い方向に変え、「より公正で調和のとれた社会、より民主的な社会の樹立を助け、中国が国際社会に溶け込む上での助けになる」だろうと述べていた。

中国共産党の見解では、これらの目標は全て達成されたし、今後も達成され続ける。それは彼らが、10年に及ぶ習近平の統治の下で、民主主義と人権の解釈を都合よく変更してきたからだ。


一方の欧米諸国は、中国がいずれ完全な市場経済に移行するだろうという期待から、彼らの産業と金融の市場を開放した。それによって中国経済は途方もなく大きな利益を得た。西側の多くの政治家たちは、中国が豊かになれば、いずれ民主国家になるという幻想さえ抱いていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中