最新記事

カザフスタン

カザフ騒乱 なぜ暴徒化? なぜロシア軍? 今後どうなる?

Kazakhstan’s Instability Has Been Building for Years

2022年1月17日(月)16時20分
ラウシャン・ジャンダイェバ(カザフスタン出身、ジョージ・ワシントン大学博士課程)、アリマナ・ザンムカノバ(カザフスタン出身の研究者)
アルマトイに展開していたロシア軍

アルマトイに展開していたロシア軍は撤退を始めたが(1月13日) PAVEL MIKHEYEVーREUTERS

<全土に広がる抗議デモと治安部隊との衝突は、長期独裁政権への不満が爆発した必然の結果。ロシアへの支援要請はエリート層の内部抗争が原因だった>

カザフスタンでは2022年が始まった直後、旧ソ連からの独立後30年間で最も激しく暴力的な抗議デモの嵐が吹き荒れた。

新年の祝賀ムードの最中に西部の町で始まった小さな抗議行動は、わずか数日で最大都市アルマトイでの大規模な略奪や暴動へと発展。燃料価格の高騰が引き金となって積年の課題が噴出するなか、国家権力による報復が激しさを増し、さらに上層部の内部抗争を示唆する証拠もある。

今回ほどの規模ではなかったものの、カザフスタンで市民への弾圧が行われるのはこれが初めてではない。

今回の抗議運動は西部のマンギスタウ州ジャナオゼン市で始まったが、ここは2011年12月に油田の労働環境に抗議するデモ隊と当局が衝突した場所でもある。ヌルスルタン・ナザルバエフ大統領(当時)は容赦なくデモ隊を攻撃し、少なくとも16人が死亡した。

それから10年余りがたった今年1月2日、液化石油ガス(LPG)の価格が突然2倍に引き上げられたことに怒りを爆発させた人々が街頭に繰り出した。

マンギスタウ州は石油などの天然資源が豊富だが、その繁栄は平等に分配されてはこなかった。国家の富の大部分を生み出しているのに、地元の人々の生活は行き詰まり、格差拡大や汚職の蔓延ばかりが目立つ。

大半の車が燃料として使用しているLPGの価格高騰は、国民に経済的安定を提供できない政府の新たな失策と受け止められた。

エネルギー省はLPGの電子商取引への移行に向けた措置だとして、今回の値上げを正当化している。これに伴い、国内消費者への補助金は徐々に廃止され、オンライン取引を介した市場価格への移行が進められる。

全土で多くの市民が抗議運動に加わるにつれて、当初の燃料価格への不満は社会経済的、政治的な要求へと広がっていった。

国民の不満が頂点に達した1月5日、アルマトイでデモ隊と治安部隊が衝突。私的財産と公的機関の両方を狙った略奪や破壊行為も相次ぎ、かつての首都は荒れ果ててしまった。

燃料代は不満のごく一部

カザフスタンは市民社会が脆弱で、権威主義によって安定が保たれていると見なされてきた。

しかし実際には、政情不安につながる前提条件はずっと以前から現れており、一向に解決されない問題に世論の不満が募っていた。

2015年には原油安を受けて通貨テンゲが暴落し、2016年には中国への土地売却につながる法改正が世論の猛反発で凍結された。

さらに、2017年に開催された万国博覧会への巨額の投資、長期独裁政権を敷いてきたナザルバエフの大統領辞任(別の要職に変わっただけだったが)と、彼の名にちなんだ首都名の変更、コロナ禍での深刻な打撃......。これらは国民の不満のほんの一部でしかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中