最新記事

国境紛争

中国、また新たな国境問題 ブータンとの係争地域に入植地建設

2022年1月15日(土)11時22分

中国外務省は、「(建設事業は)現地住民の就労・生活条件改善に向けたものだ」とした上で、「自国領域内で通常の建設事業を行うことは、中国の主権の範囲内である」と述べた。それ以上のコメントについては控えるとしている。

専門家2人は、こうした形で村が建設されれば、中国政府にとっては相当の戦略的価値が生じると指摘する。新たな建設現場は、インド、ブータン、中国の国境が交錯するドクラム高地から9─27キロの距離にある。ドクラムでは2017年、中印両国の部隊が2カ月以上にわたってにらみ合いを続けた。

専門家1人とインド国防関係者は、入植地の建設により、中国は辺境の地域の管理・監視を強化することができ、安全保障に力点を置いた施設を整備するために利用する可能性もあるだろうと話している。

インド外務省にもコメントを要請したが、回答は得られなかった。

人口80万人に満たないブータンは、477キロに及ぶ中国との国境を画定させるべく約40年にわたって中国政府と交渉してきた。ブータン王国にとって、この問題は単なる領土の確保に留まらず、主要な同盟国であり経済パートナーであるインドから見た安全保障上の潜在的な重要性という点での思惑もある。

ブータン外務省は、中国との間で2021年4月に行われた最新の国境交渉の中で、両国は双方の見解の相違を解消するプロセスを加速することで合意したと述べている。ただし、その計画の詳細については明らかにできないとしている。

ブータン外務省は、「ブータンと中国は、国境交渉という枠組みの中であらゆる問題について協議している」と述べた。

「中国が、ブータンが主張する国境を越えて村を建設していることは、37年間で24回を数える国境交渉において、ブータンを中国側の要求に屈服させることを意図したものだと思われる」。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のチベット地域専門家で、中国・ブータン国境問題に注目してきたロバート・バーネット専門研究員は、こう分析した。

国境沿いに村を600カ所以上建設

バーネット氏と、マサチューセッツ工科大学(MIT)安全保障研究プログラムのディレクターを務めるM・テイラー・フラベル氏は、入植地の建設は、2017年に中国が発表した、係争対象国境の中国側に位置するチベット自治区(TAR)の国境沿いに600カ所以上の村を建設するという計画の一環と思われる、と指摘する。

フラベル氏は、こうした建設活動から考えて、恐らく中国は国境地域における支配の強化とインフラの改善を目指しているのだろうと言う。

中国統治下にあるチベット自治区は1965年に設置された。中国の支配に抵抗する蜂起が失敗に終り、ダライ・ラマ14世がチベットから亡命した6年後である。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

10月全国消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.3%

ワールド

ノルウェーGDP、第3四半期は前期比+0.5% 予

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中