最新記事

韓国

裏切り、内輪もめ、スキャンダル、失言...韓国・大統領選挙の大混乱

Right Lags in Korean Race

2022年1月12日(水)17時11分
ネーサン・パク(弁護士、世宗研究所非常勤フェロー)
尹錫悦前検事総長

妻の経歴詐称疑惑も発覚して打撃続きの「国民の力」党の尹 KIM HONG-JIーPOOLーREUTERS

<保守系の野党候補は失言や疑惑、陣営の内紛で失速したが、支持率で逆転したリベラル系の与党候補はこのまま逃げ切れるか>

3月9日に行われる韓国大統領選まで2カ月を切った。朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)の任期途中での罷免に伴って実施された2017年以来の大統領選挙だ。

二大政党の1つ、リベラル派の与党「共に民主党」は、1期5年限りの任期を満了する文在寅(ムン・ジェイン)大統領の後継者として、李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事を公認候補に選んだ。一方、保守系最大野党「国民の力党」は、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長を指名。どちらも韓国大統領選候補としては異例の経歴の持ち主で、選挙戦は既に大荒れの様相を呈している。

韓国で、リベラル派の中核を担うのはかつての民主化運動の指導者だが、李は違う。政界での経験は比較的短く、しかも地方レベル止まりだ。18年から(大統領選に専念するため昨年10月下旬に辞職するまで)京畿道知事の座にあったものの、ソウル郊外の城南市の市長を2期務めたのが主なキャリアだ。

城南市長時代はユニバーサル・ベーシック・インカム(最低所得保障、UBI)を主要政策に掲げ、満24歳の市民全員に地域通貨で「青年配当」を支給。当時は異質の政策と受け止められた。

13歳から工場労働者として働いた元労働問題専門弁護士の李は、不愛想で粗野な人物とみられていた。前回大統領選で、共に民主党の公認候補争いに出馬し、ライバルの文を激しく攻撃したため、文の支持者の多くは李に対して懐疑的な見方をしていた。

リベラルの英雄が保守の救世主に

リベラル派の英雄から保守派の救世主に転じた尹の歩みは、輪をかけて異例だ。検事としてキャリアを積み、選挙政治の経験は皆無。朴政権時代の数多くの疑惑を捜査し、保守派の朴、その前任者の李明博(イ・ミョンバク)の実刑判決につなげたことで名を上げた。おかげで19年には文の指名を受け、検事総長に就任した。

尹の抜擢は、長らく独裁体制の手先になってきた検察庁の改革という文の公約実現の一環と受け止められた。だが間もなく、尹は同庁の優れた捜査力の矛先を上司である曺国(チョ・グク)法相(当時)に向け、朴をめぐる事件の捜査を上回る態勢で、執拗な家宅捜索を行うことになる。

法相任命から約1カ月で辞任した曺の捜査は、政治的動機に基づいていた可能性がある。曺は将来の大統領候補と目され、尹のライバルだった。

16年12月の朴の弾劾訴追以来、初めて凱歌を上げた形の保守派は、尹に大統領選出馬を打診し始めた。尹は昨年6月、次期大統領選への立候補を公式に表明。11月に国民の力党の公認候補に選出された。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 米関税で深刻な景気後退の

ワールド

ルビオ米国務長官、訪仏へ ウクライナや中東巡り17

ワールド

中国主席がマレーシア訪問、保護主義抵抗に団結呼びか

ビジネス

米3月小売売上高1.4%増、約2年ぶり大幅増 関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 8
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 9
    あまりの近さにネット唖然...ハイイログマを「超至近…
  • 10
    「増税原理主義者を打破する機会」トランプ関税は日…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 10
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中