裏切り、内輪もめ、スキャンダル、失言...韓国・大統領選挙の大混乱
Right Lags in Korean Race
妻の経歴詐称疑惑も発覚して打撃続きの「国民の力」党の尹 KIM HONG-JIーPOOLーREUTERS
<保守系の野党候補は失言や疑惑、陣営の内紛で失速したが、支持率で逆転したリベラル系の与党候補はこのまま逃げ切れるか>
3月9日に行われる韓国大統領選まで2カ月を切った。朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)の任期途中での罷免に伴って実施された2017年以来の大統領選挙だ。
二大政党の1つ、リベラル派の与党「共に民主党」は、1期5年限りの任期を満了する文在寅(ムン・ジェイン)大統領の後継者として、李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事を公認候補に選んだ。一方、保守系最大野党「国民の力党」は、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長を指名。どちらも韓国大統領選候補としては異例の経歴の持ち主で、選挙戦は既に大荒れの様相を呈している。
韓国で、リベラル派の中核を担うのはかつての民主化運動の指導者だが、李は違う。政界での経験は比較的短く、しかも地方レベル止まりだ。18年から(大統領選に専念するため昨年10月下旬に辞職するまで)京畿道知事の座にあったものの、ソウル郊外の城南市の市長を2期務めたのが主なキャリアだ。
城南市長時代はユニバーサル・ベーシック・インカム(最低所得保障、UBI)を主要政策に掲げ、満24歳の市民全員に地域通貨で「青年配当」を支給。当時は異質の政策と受け止められた。
13歳から工場労働者として働いた元労働問題専門弁護士の李は、不愛想で粗野な人物とみられていた。前回大統領選で、共に民主党の公認候補争いに出馬し、ライバルの文を激しく攻撃したため、文の支持者の多くは李に対して懐疑的な見方をしていた。
リベラルの英雄が保守の救世主に
リベラル派の英雄から保守派の救世主に転じた尹の歩みは、輪をかけて異例だ。検事としてキャリアを積み、選挙政治の経験は皆無。朴政権時代の数多くの疑惑を捜査し、保守派の朴、その前任者の李明博(イ・ミョンバク)の実刑判決につなげたことで名を上げた。おかげで19年には文の指名を受け、検事総長に就任した。
尹の抜擢は、長らく独裁体制の手先になってきた検察庁の改革という文の公約実現の一環と受け止められた。だが間もなく、尹は同庁の優れた捜査力の矛先を上司である曺国(チョ・グク)法相(当時)に向け、朴をめぐる事件の捜査を上回る態勢で、執拗な家宅捜索を行うことになる。
法相任命から約1カ月で辞任した曺の捜査は、政治的動機に基づいていた可能性がある。曺は将来の大統領候補と目され、尹のライバルだった。
16年12月の朴の弾劾訴追以来、初めて凱歌を上げた形の保守派は、尹に大統領選出馬を打診し始めた。尹は昨年6月、次期大統領選への立候補を公式に表明。11月に国民の力党の公認候補に選出された。