お粗末な「物量作戦」に頼ってきた中国の「SNS工作活動」に、洗練の兆し
Tweeting Into the Void
ILLUSTRATION BY STUDIOSTOKS/SHUTTERSTOCK
<膨大な数の「捨てアカウント」を作って中国共産党寄りの主張をばらまく従来の作戦は、ほとんどフォロワーも影響力も持てなかったが......>
ツイッターは2021年12月2日、2つの中国政府系の宣伝工作アカウント群の排除を発表した。新疆ウイグル自治区に関する中国共産党の主張を繰り返す約2000のアカウントと、同自治区政府に雇われた民間企業「張裕文化」関連の112アカウントだ。
私たちスタンフォード大学インターネット観測所は、ウイグル人の扱いについて党寄りの主張を拡散してきたこの2つのアカウント群について分析した。いずれも国営メディアの報道内容をコピーしたり、良い暮らしだと語るウイグル人の証言なるものばかり伝えてきたアカウント群だ。
これ以前に削除された多くの事例と同様、やり口は稚拙だった。実在の人物のアカウントに見せ掛ける努力もせず、プロフィール画像が初期設定のままだったり、ネット上の画像を借用していたりする。そして他の話題の投稿履歴は皆無に等しい。
フォロワーの数はゼロに近い。投稿への反応(リツイートや「いいね」など)もほとんどない。私たちが初回の分析対象としたツイート3万1269件のうち、97%は反応が皆無だった。
20年に削除されたアカウント群の場合も、ツイート1件ごとの反応数は平均0.81。つまり「いいね」の1つもつかない。アカウントごとの累計反応数も平均23.07にすぎなかった。
実際、欧米のSNSを舞台とする中国共産党系の宣伝工作は、総じて同じ主張を執拗なまでに繰り返すが、そのわりに反応は鈍い。
2000以上のアカウントが削除された今回も、数週間後には似たようなアカウントが何百も登場していた。私たちとは別のアカウント群を調べた研究者たちも、同様の傾向を指摘している。
効果のない活動をなぜ繰り返すのか
まともな拡散効果を得られない工作活動を、性懲りもなく繰り返すのはなぜか。その理由を考えてみよう。
第1は、プラットフォーム側の対応が一定の効果を上げている可能性だ。
アカウントが削除されるたびに、中国の工作隊は振り出しに戻って新たなアカウントを立ち上げている。どうせすぐに削除されるのは承知の上だから、投稿者の人物像を念入りに作り上げたりせず、ひたすら書き込みの数やハッシュタグを増やし、情報の洪水を起こすことに専念する。与えられた状況ではそれが最適な戦略だと判断したのだろう。だが、プラットフォーム側の対応(アカウントの削除)のせいで効果を上げられないのかもしれない。
プラットフォーム側がアカウントの一斉削除を公表するのは、一定の抑止効果を期待するからだ。現にフェイスブックのセキュリティー担当者らは「外国または国内の情報工作というレッテルを貼られ、削除されたら彼らの評判は落ちる」と論じている。
しかし、それでも次から次と新たなアカウントが生まれてくる。これはアカウント削除の抑止効果が働いていない証拠ではないか。そもそも私たちの知る限り、こうした情報工作に携わる人たちが自らの「評判」を気にして行動を変えた事例はない。