最新記事

SNS

お粗末な「物量作戦」に頼ってきた中国の「SNS工作活動」に、洗練の兆し

Tweeting Into the Void

2022年1月7日(金)17時31分
ジョシュ・ゴールドスタイン ルネ・ディレスタ(米スタンフォード大学インターネット観測所)

例えばロシア政府のダミー組織とされるインターネットリサーチエージェンシー(IRA)は厚顔無恥で、いくら削除や閉鎖を繰り返しても、へこたれる様子はない。そうであれば、アカウント作成が比較的容易なプラットフォームでは、完全な排除は不可能ということになる。

第2は、中国側が工作員たちを「質より量」で評価している可能性だ。どんな組織も、その構成員の評価には一定の基準を必要とする。現場の工作員は、その基準に合わせて、できるだけ点数を稼ごうとする。

こうした活動の効果を客観的に判定するのは難しい。SNSの投稿内容に影響されて本当に考え方や行動を変えた人がどれだけいるかを、どうやって割り出すか。投稿を読んで考えを変えた人と、初めから中国びいきの人を、どう区別するか。

それが不可能に近いなら、工作員の評価には投稿の件数や開設したアカウントの数を使うことになるだろう。例えば中国国内でのSNS宣伝工作に関する研究によると、政府はいわゆる「五毛党」を利用している。一般ユーザーを装って政府の指示どおりの書き込みをし、1件当たり5毛(約9円)の報酬をもらう工作員が「五毛党」だ。何億回もの書き込みがネットにあふれれば、少なくとも「人々をうんざりさせ、話題を変えることができる」という。

ただしロシアのIRAは、あれこれ工夫して反応を多く取れる話題や人物像を模索しているようだ。15〜18年に最もフォロワーが多かったIRA系のアカウントは「イエズス軍」を名乗っていた。

しかし中国当局が投稿の質や反応を重視していないとすれば、こうした宣伝工作の担当者は当然、質より量で点数を稼ごうとする。偽情報を発信するアカウントの数や、ツイートの回数に重点を置きたくなる。

工作活動の「外注」が増加している可能性

あるいは、中国共産党が多数の業者を雇い、同じような宣伝工作に従事させている可能性もある。個々の業者は活動を一から立ち上げ、目的に応じた複数のアカウントを開設することになる。

仮に中国側が対外情報工作を複数の業者に外注しているとしたら、1つの工作を探り当てても、工作活動を全て排除できる可能性は低い。

こうした外注の事例が明らかになったのは最近のことだ。ツイッターは12月2日、中国の非政府系組織による工作活動に初めてメスを入れた。それが新疆ウイグル自治区政府の支援を受けている民間企業「張裕文化」だ。

同様にフェイスブックも、「四川無声信息技術有限公司」を名乗る民間情報セキュリティー会社が関わるネット工作の存在を報告している。

だがツイッターやフェイスブックによる削除処分で明らかになった外注の実態は、氷山の一角かもしれない。情報工作の現状に詳しい研究者たちによれば、今は多くの国の政府が広告やマーケティングのプロに偽情報の拡散などを委託している。

適切な外注をすれば工作活動の質が向上する可能性もある。現に、中東や北アフリカの政府が外部委託で開設したアカウントには多くのフォロワーがいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干

ワールド

アングル:欧州最大のギャンブル市場イタリア、税収増

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中