お粗末な「物量作戦」に頼ってきた中国の「SNS工作活動」に、洗練の兆し
Tweeting Into the Void
例えばロシア政府のダミー組織とされるインターネットリサーチエージェンシー(IRA)は厚顔無恥で、いくら削除や閉鎖を繰り返しても、へこたれる様子はない。そうであれば、アカウント作成が比較的容易なプラットフォームでは、完全な排除は不可能ということになる。
第2は、中国側が工作員たちを「質より量」で評価している可能性だ。どんな組織も、その構成員の評価には一定の基準を必要とする。現場の工作員は、その基準に合わせて、できるだけ点数を稼ごうとする。
こうした活動の効果を客観的に判定するのは難しい。SNSの投稿内容に影響されて本当に考え方や行動を変えた人がどれだけいるかを、どうやって割り出すか。投稿を読んで考えを変えた人と、初めから中国びいきの人を、どう区別するか。
それが不可能に近いなら、工作員の評価には投稿の件数や開設したアカウントの数を使うことになるだろう。例えば中国国内でのSNS宣伝工作に関する研究によると、政府はいわゆる「五毛党」を利用している。一般ユーザーを装って政府の指示どおりの書き込みをし、1件当たり5毛(約9円)の報酬をもらう工作員が「五毛党」だ。何億回もの書き込みがネットにあふれれば、少なくとも「人々をうんざりさせ、話題を変えることができる」という。
ただしロシアのIRAは、あれこれ工夫して反応を多く取れる話題や人物像を模索しているようだ。15〜18年に最もフォロワーが多かったIRA系のアカウントは「イエズス軍」を名乗っていた。
しかし中国当局が投稿の質や反応を重視していないとすれば、こうした宣伝工作の担当者は当然、質より量で点数を稼ごうとする。偽情報を発信するアカウントの数や、ツイートの回数に重点を置きたくなる。
工作活動の「外注」が増加している可能性
あるいは、中国共産党が多数の業者を雇い、同じような宣伝工作に従事させている可能性もある。個々の業者は活動を一から立ち上げ、目的に応じた複数のアカウントを開設することになる。
仮に中国側が対外情報工作を複数の業者に外注しているとしたら、1つの工作を探り当てても、工作活動を全て排除できる可能性は低い。
こうした外注の事例が明らかになったのは最近のことだ。ツイッターは12月2日、中国の非政府系組織による工作活動に初めてメスを入れた。それが新疆ウイグル自治区政府の支援を受けている民間企業「張裕文化」だ。
同様にフェイスブックも、「四川無声信息技術有限公司」を名乗る民間情報セキュリティー会社が関わるネット工作の存在を報告している。
だがツイッターやフェイスブックによる削除処分で明らかになった外注の実態は、氷山の一角かもしれない。情報工作の現状に詳しい研究者たちによれば、今は多くの国の政府が広告やマーケティングのプロに偽情報の拡散などを委託している。
適切な外注をすれば工作活動の質が向上する可能性もある。現に、中東や北アフリカの政府が外部委託で開設したアカウントには多くのフォロワーがいる。