最新記事

セーフティーネット

年金+バイトは12万円ポッキリ それでも山谷に暮らす男が月25万円を稼げる秘策とは

2022年1月29日(土)14時40分
國友公司(ライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

ホームレスが熱心に聖書を読む理由

大久保にある韓国系キリスト教会

お小遣いがもらえるキリスト教会の集会には数百人が集まった。(撮影=筆者)

このおじさんのイチオシは水曜の昼に上野駅前でもらえるほっともっと弁当。そして大久保にある韓国系キリスト教会。なんとここは月に一回現金をくれるそうだ。今は人が増えすぎて一人三千円だが、一万円くれた時期もあった。みんな服装を変えて何回ももらおうとトライして、このおじさんは五万円までチャレンジに成功した。

この教会は以前こんな制度もあったという。月四回炊き出しに来ると皆勤賞で千円もらえる。次の月も皆勤賞なら二千円、その次は三千円とステップアップしていく。

さらに魅力的なのが、とあるキリスト教会で炊き出し時に行われている聖書クイズ(取材当時はコロナ禍でクイズは休止中)。聖書にまつわるクイズが出題され、当たると数千円のお小遣いがもらえるので白熱するのだという。そして、このクイズがかなりマニアックで難しい。

「みんなクイズに正解して金もらいたいからよ、教会から聖書もらって勉強するんだぞ。そうでもしないとまず正解できないレベルだからな」

街で聖書を読んでいるホームレスは何度か見かけたことがある。「ホームレスは聖書読みがち」とすら思っていた。みんなテスト勉強をしていただけだったのだ。

そしてこの教会で出るカレーが抜群に美味いという。このおじさんだけではなく、ほかのホームレスと炊き出しの話をするたびに、さらには黒綿棒までもがみんな口を揃えて、「あのカレーはもう食べた? あれを食べたらもうよそに行けなくなるよ」と目を輝かせて言うのだ。

都営の電車とバスを無料で乗り回し、東京中の炊き出しを網羅

「新宿、渋谷、池袋、上野、山谷、毎日全部歩きで回ってるんだぞ」
「え、歩きですか?」
「そうだよ。根性だよ。すごいだろ?」

私なんて都庁下から代々木公園まで歩くのにもヘトヘトなのにすごすぎる。考えられない。鉄人ではないか。

「みんなそうやって炊き出し回って生活してるんだよ。向こうにベラベラ喋っている奴がいるだろ。アイツは生活保護歴五十年。全部の炊き出しを回ってるぞ。生活保護を受けてると都営電車と都営バスが全部タダで乗れるからな」

鉄人が指をさした男はター坊とはまた別の男だった。その男もよく喋るので炊き出し界隈では「九官鳥」と呼ばれており、自分でノートにまとめた炊き出しスケジュールを常に持ち歩いている。黒綿棒とは違い東部も西部も網羅しているので、「今日本にある炊き出し情報としてはこれが最強だと思っている」という黒綿棒の言葉は嘘ということになった。

鉄人は現在七十五歳。オフィスビルを専門とする引っ越しセンターで人材派遣の仕事をしていた。街で私のような人間に声を掛け、会社で面接をし、入社させるのだという。

日給は一万三千円をもらっていたが、酒とギャンブルにすべて消え、家を借りるのが馬鹿らしくなってホームレスになった。路上から出勤し続け、五年前に退職した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 9
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 10
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中