「すぐ崩壊する」の観測を覆した金正恩の10周年、侮れない実力と「らしさ」
KIM JONG UN’S DECADE
指導者として父や祖父と同じ立場に上り詰めた金正恩(21年1月) KCNAーREUTERS
<父からの権力継承後、すぐにも崩壊すると思われた金正恩政権だが、党の機能再建と「革新」で苦境を切り抜けてきた>
父親の死を受けて10年前に北朝鮮のトップに立ったとき、金正恩(キム・ジョンウン)はまだ27歳だった。この男でいいのかという観測が、あちこちで出た。
当時の彼は公務デビューからわずか15カ月。海外留学の経験ありという情報を除けば、後は生前の父・金正日(キム・ジョンイル)総書記に同行したときの様子から推測する以外になかった。
この若き後継者は経験不足で国内の権力基盤も弱いから、国内経済が苦しく国際的にも孤立した北朝鮮はこのまま崩壊に向かうのではないか。そう思えたのも無理はない。
それから10年。北朝鮮は金正恩体制の下で生き延びてきた。それだけではない。正恩は大胆かつ自信に満ちた指導者として頭角を現し、数々の試練を乗り越え、今や(少なくとも肩書上は)父にも祖父にも並び立つ存在となっている。父の死後に多くの観測筋が予測したような集団指導体制に移行した気配はない。
この政権は持たないと考える理由は山ほどある。そもそも指導者・金正恩自身が何度も、北朝鮮は経済的な苦境に陥っているという事実を公然と認めている。昨年前半には朝鮮労働党幹部の首のすげ替えが何度もあり、外部の観測筋はそのたびに神経をすり減らして有力者たちの運命を見守ったものだ。
今の苦境を切り抜ける可能性が高い
北朝鮮に対する国際社会の制裁は続いているし、新型コロナウイルスの感染爆発を防ぐために国全体のロックダウンを続けてもいる。このままだと北朝鮮の経済は危機的状況に陥るのではないかと懸念する向きもあった。
しかし今も、北朝鮮は持ちこたえている。このままなら、正恩率いる北朝鮮はどうにかして今の苦境を切り抜ける可能性が高い。好むと好まざるとにかかわらず、もう誰も北朝鮮を侮ることはできない。
正恩が2010年9月の朝鮮労働党第3回代表者会で公式に姿を現す何年も前から、北朝鮮国内では金一族の3代目を世襲の指導者とするための根回しが始まっていた。しばらく表面化することはなかったが、08年に2代目の正日が脳卒中で倒れ、09年1月に三男の正恩が後継者に指名されると、正恩を後継者として美化する動きは一気に加速した。
後継者に指名された後の正恩は、段階的に権力基盤を固めていった。いわゆる帝王学をいつから仕込まれていたのかは不明だが、国営メディアの報道を見る限り、正恩は後継指名される前から「若き将軍」として各地に赴き、軍隊の視察をしていた。また09年4月のミサイル発射実験にも関与していたとされる。