最新記事

中国

人民日報の歴史決議解説シリーズの一つに習近平の名がないことを以て「路線闘争」とする愚かさ

2021年12月26日(日)11時27分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

しかし、ここまで次から次へと伝染してくようであるなら、ここで食い止めなければなるまい。

人民日報は習近平の「歴史決議」をシリーズで連載解説している

今年11月8日から11日にかけて、北京で第十九回党大会「六中全会」(中国共産党中央委員会第六回全体会議)が開催され、「歴史決議」が採択された。習近平による「歴史決議」だ。

11月17日に人民日報が公開した全文を見ると3.62万字もあるので、習近平「歴史決議」の神髄を広く人民に知らせるために、人民日報は12月8日から24日に至るまで、この要旨に関して解説するシリーズを連載し始めたのである。

第1回目(12月8日)は<意識形態業務の主導権をしっかり掌握せよ>で、タイトルの後に括弧書きで「第19回党大会六中全会の精神を深く学習し貫徹しよう」という言葉がある。これは、「さあ、これから六中全会で採択された習近平による歴史決議を紹介するので、皆さん良く学び実行しましょうね」という、連載物の宣伝と声掛けでもある。

第2回目(12月9日)は<改革開放は党の偉大なる覚醒の一つだ>というタイトルで、このタイトルは、2018年12月18日に習近平自身が言った言葉である。中国語では「改革開放是我們党的一次偉大覚醒」で、その簡体字を習近平のスピーチの中で確認することができる。それを歴史決議の中に盛り込んだものである。

したがって、第2回目は習近平の改革開放に対する位置づけと視点が主軸となっているので、「習近平」という名前が出てくるはずもないのである。 

以下、第3回(12月10日)第4回(12月13日)・・・と続くが、すべて説明するのは大変なので、連載のタイトルや日時とともに、これまでの国家指導者の名前が出てくる回数を計算した一覧表を作成したので、それをご覧いただきたい。

人民日報に連載された「歴史決議」の解説シリーズ一覧表
タイトルと日付および国家指導者の名前の出現回数

endo20211226093901.jpg
人民日報の記事を基に筆者作成

シリーズはこの後も続くかもしれないが、先ずは12月24日までの解説から名前の出現回数を拾ってお示しした。

この一覧表をご覧になれば一目瞭然。

全体の合計から言えば「習近平」という名前の出現回数は「127回」と圧倒的に多い。

第2回目の時だけ習近平の名前がない。

これは習近平が位置付けた改革開放の解釈なので、ここに「習近平」という名前があるはずがないのである。

大紀元がそれをうまく拾って書いた嫌中記事をコピペして少し膨らませ、原典を調べもせずに煽り記事を書く姿勢には、実に失望してしまう。

このような虚偽の事実の拡散は、日本国民に利益をもたらさない。

本稿はそれを防ぐために書いたものなので、ご理解いただければ幸いである。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中