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中央経済工作会議「習近平重要講話」の「三重圧力」に関する誤解と真相

2021年12月24日(金)18時55分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

(2)「中央経済工作会議」において習近平の経済政策についてこれだけ正面切った批判を許す形になったのは、あまりに激しい経済的な落ち込みに対する反発が党内でも猛烈に高まっていることを示している。次期党大会で習近平体制が覆る可能性はかなり大きくなったのではないかーー。「中央経済工作会議」の展開を見ると、そんな意外な中国の実態が見えてくるのである。

講演依頼者はほかにも多くの点を指摘し、次回の講演で真相を解説してほしいと問題提起してきた。

いや、「真相」も何も、この某氏はそもそも中国語が読めないのではないかと思うし、もし読めるなら、中国の政治構造のイロハを全く知らないのではないかとさえ思う。だから「論外だ!」と片づけたいが、この依頼者のように、少なからぬ日本人が某氏の分析を読み、それを通して中国の現状理解をしているとすれば、これはかなり罪深いことだと思うので、不本意ながら不特定多数の読者のためにも、何が間違っているかを指摘する必要があるのではないかと思われた。

某氏の分析の間違い

以下、某氏の分析の間違いをいくつか列挙してみよう。

A:そもそも、会議は習近平が主催し、「三重圧力」は習近平自身が言っている言葉なので、習近平に対する「正面切った批判を許す形になった」という事実は存在しない。中国の政治構造に関する理解が欠如しているための誤解で、そもそも中国語が分かるなら、原文には習近平が重要講話を行ったと明記している。あるいは原文を読んでいないのかもしれない。

B:日本で「三重圧力」がほとんど報道されていないというが、あるいは正しくは報道されているとしても、某氏のような誤解釈した形で報道されるケースは少ないというだけではないのか。

C:「三重圧力」に関して某氏は「1)需要の収縮に直面し、2)供給に対する打撃に見舞われ、3)先行きも不透明」と定義しているが、「1)需要の収縮」は間違った翻訳ではないが、「2)」と「3)」は誤訳であり、中国語能力の問題ではないだろうか。まして況(いわん)や、習近平自身が言った言葉なので、「習近平のメンツが丸潰れとなる強烈な結論」とはならない。

D:したがって「次期党大会で習近平体制が覆る可能性はかなり大きくなった」ということにはつながらない。

それ以外にも某氏は「地方公務員の所得が激減中」とか「今年の第二四半期にかつては十万人程度で長年安定していた上海の失業保険の受給者数が50万人を突破するところまで伸びた」などという例を挙げて「中国の経済崩壊」を示唆しているようだが、これも中国の実情をあまりに理解していないことを露呈しているとしか言いようがない。

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