インドネシア・マレーシアの海洋開発に中国が圧力 五輪ボイコット論争の陰で南シナ海進出を強化
こうした状況で中国は11月にフィリピンのEEZ内にあるフィリピン海軍の座礁船を撤去するよう要求。11月16日には座礁船に駐留するフィリピン兵士に食料などを輸送する民間船舶に対して中国海警局の船舶が進路妨害と放水を行い、民間船舶が損傷を受けるという事件も起きている。
さらにマレーシアのボルネオ島北西部海域にある海底資源を調査する中国の調査船が、マレーシアの抗議にも関わらず11月以降も調査を継続。両国関係が緊張する状況となっている。
同海域には以前から中国の航空機が接近して、マレーシア空軍が警戒強化するなどの事態が起きており、そこに今回は調査船を派遣してマレーシアのEEZで海底資源調査を強行しているのだ。
G20議長国となるインドネシアを圧迫?
こうした中国側の姿勢の背景には2022年10月インドネシア・バリ島でのG20サミット開催があるのは間違いないといわれている。
東南アジア初のサミット開催で、議長国を務めるインドネシアは米中首脳をはじめとする先進国首脳が顔を揃えるサミットを主導する立場を担うことになる。
同サミットで中国の南シナ海における一方的な海洋権益主張、拡大に対する警戒感を共有する各国に対して、インドネシアがどう協議をリードするのかが中国にとっては重要問題となっている。このため、今回のインドネシアの海洋開発への抗議も、マレーシア、フィリピンに対するものと同様、強硬姿勢を示し既得権益を主張するための示威行為とみられている。
ロイター通信によると中国の抗議に対してインドネシア側は「掘削は中止しない」とこれまでの姿勢を改めて表明したとしている。
中国はまた別の書簡で8月に実施したインドネシア軍と米軍の共同演習にも抗議しているといい、必要以上にインドネシアが米国と接近するのを警戒しているといえる。
こうした動きをみるにつけ、2022年も10月のG20に向けて中国がインドネシア、マレーシアそして5月に大統領選を迎えるフィリピンに対して高圧的な態度と挑発行動をさらに強めていく可能性が高く、南シナ海の緊張状態はさらに高まることが予想されている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など