最新記事

中国

『中国の民主』白書と「民主主義サミット」

2021年12月14日(火)16時20分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

このようなことをしたら、約100近い国を、「さあ、中国側に付きなさい」と追いやったようなもので、習近平やプーチンは、むしろ「ニンマリ」ではないだろうか?

なぜなら招かれた100強の国や地域も、米中覇権競争の中で政治的にはアメリカを向く傾向はあるものの、経済的には中国に頼っているため、「アメリカ側に付きます」とは表明できない。特に力のない国々は、むしろ中国側に「良い顔」をしていないと生存できないので、意思表示はできない。多くの国は米中のはざまで「漁夫の利」を得ながら泳いでいる方が好都合なのだ。

二者択一を迫るようなサミットに積極的に出たいという国の数は圧倒的に少ないだろう。案の定、サミットは盛り上がりに欠け、アメリカの影響力の低下を逆に露呈してしまった。

言論と人権を弾圧する中国共産党の一党支配体制を維持させないようにするのは歓迎するが、その方法は稚拙と言っても過言ではない。「排除の論理」では、国際社会を一つに結び付けるのは困難だ。

おまけに最も強く結ばれているはずの日米が反対方向のベクトルを向いていて、12月9日のコラム<北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す>に書いたように、日本は中国に有利な方向にしか動いていない。

バイデンは日米豪印という安全保障上の枠組み「クワッド」の一員に留めておきたいため、インドを「民主主義国家」のリストの中に入れたようだが、そのインドとて、実はスウェーデンのシンクタンクV-DEMが調査データとして出しているように、インドは「選挙による独裁国家」、「専制主義国家」として分類されているのである

決定打は台湾に関する扱いだ。

本来ならこのサミットは台湾の代表として「中華民国」蔡英文総統を招き「一つの中国」を崩すのが中国にとって致命的になれるはずだったと思うが、招いたのはデジタル大臣のオードリー・タン(唐)で、しかもオードリーが台湾と大陸を色分けした地図を示しながら講演したのだが、その画面はアメリカ側によって一瞬で遮断され台湾で物議をかもしている

バイデンは「北京」に配慮したのだ!

なんという中途半端なサミットだろう。

バイデンの動き方は何とも臆病で「だらしない」。

パフォーマンスに過ぎないことを、ここでも露呈してしまう結果を招いている。

世界戦略にかけては、残念ながら中国は長期的で「戦略」に長けている。

アメリカは、もっと深く鋭い思慮に基づいて世界戦略を練り直さなければならないだろう。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中