最新記事

感染症対策

オミクロン株の急拡大が示した次世代ワクチンの必要性

2021年12月10日(金)17時29分

世界保健機関(WHO)の主任科学者、ソーミャ・スワミネイサン氏も3日のロイターネクスト会議で、次世代ワクチンの必要性に言及。「研究開発を支援するため懸命に動いている」と説明した。

第1世代ワクチンの中で特に有効性が高いのは、スパイクタンパク質を標的としたメッセンジャーRNAワクチン(mRNA)と呼ばれるタイプ。当初の発症予防効果は95%と期待を大きく上回った。開発したファイザー/ビオンテックとモデルナが多額の収入を得て、株価が高騰したゆえんだ。

感染力を失わせた(不活化した)ウイルスを原料とする中国のシノバックと中国国家医薬集団(シノファーム)のワクチンは、抗体価が急速に減り、高齢者への効果は限られることを示す複数の研究がある。

一方、フランスのバイオテック企業・バルネバは10月、不活化タイプの同社製ワクチンの効果が、やはりスパイクタンパク質を標的にするアストラゼネカ製ワクチンを上回ったと発表した。

ただ、より最近の英国における研究では、ファイザー/ビオンテックのワクチンを2回接種した後、追加接種の効果を7種類のワクチンで試したところ、バルネバだけ抗体価が増えなかったという。

オミクロン株の脅威に対しては、ほとんどの企業が既存ワクチンの新バージョン開発を進めている。アストラゼネカは、オミクロン株と共通の変異特性を持つベータ株に特化したワクチンの初期臨床データを近く入手すると明らかにした。

遠い道のり

複数の研究グループや企業は、ウイルスが生き残る上で変異できないほど重要な部分を標的にするといった、より幅広い防御能力を備えたワクチンの開発にも着手し始めた。それでも専門家は、成功させるにはもっと資金を振り向けるべきで、期間も1年以上はかかる公算が大きいとくぎを刺す。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチン設計に携わったハーバード大学のワクチン研究者、ダン・バルーチ博士は「価値ある努力なのは間違いない。それはオミクロン株というよりも、その次の変異株への答えになる」と指摘した。

モデルナは、どうすれば新型コロナウイルスの変異しにくい部分に的を絞れるか、研究を進めているところだ。スティーブン・ホーグ社長は、そうしたワクチン開発には完了まで何カ月も要する大規模臨床試験が不可欠になると話す。

同社が研究しているのはオミクロン株に特化したワクチンで、最大4種類の変異株に対応できるワクチンも検討中。ホーグ氏は「現実的に考えれば、これらの第2世代ワクチン開発が、半年から1年で実を結ぶとは思えない」と述べた。

CEPIは、イスラエルのミガル研究所傘下企業で経口式ワクチンを開発しているミグバックスに430万ドル、サスカチュワン大学のワクチン・感染症研究機関に最大500万ドルを提供。いずれも変異株に効果があるワクチン開発の初期段階にある。

より効果があるとされる自己増殖型mRNAワクチンを手掛けるグリットストーン・バイオも、CEPIから最大2600万ドルを供与され、ゲーツ財団と米政府の支援も受ける。

アンドリュー・アレンCEOは「パンデミック発生から間もない時期に製造されたワクチンが、われわれに製造可能な最善のワクチンだと考えるのはやや甘いというべきだ」と語った。

(Julie Steenhuysen記者)


[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

韓国高官、大統領選前の米との関税交渉決着「理論的に

ビジネス

日産自の業績に下方圧力、米関税が収益性押し下げ=S

ビジネス

NEC、今期の減収増益予想 米関税の動向次第で上振

ビジネス

SMBC日興の1―3月期、26億円の最終赤字 欧州
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中