最新記事

韓国

韓国の「元独裁者」2人、国内での「評価」がここまで違うのはなぜか

Praise and Censure

2021年12月9日(木)21時38分
木村幹(神戸大学大学院国際協力研究科教授)

しかし、今日の韓国社会ではこのような全斗煥政権期における経済面での業績が、朴正熙と同様に評価されているとは思われない。そしてそれは、朴正熙によるクーデターや民主化運動の弾圧が、全斗煥によるものほどには非難されないのと裏腹の関係になっている。

そのことは、軍事クーデターにより誕生し、民主化運動を力で弾圧しつつ、同時に韓国を経済成長へと導いた「2つのよく似た政権」の功罪が、2人の元大統領の間で分かち合われる形になっていることを意味している。

つまり、朴正熙を称揚したい人々が民主化運動の弾圧という彼の「罪」を糊塗するために、経済発展という「功」の側面を過剰に強調した結果、保守派に属する人々の間ですら全斗煥政権期の経済政策は「偉大な朴大統領の業績を引き継いだだけ」のものと見なされるに至っている。こうして全斗煥は残った「罪」だけを一身に負わされ、厳しい批判が向けられている。

全斗煥と盧泰愚が死に、残る韓国の大統領経験者は李明博(イ・ミョンバク)と朴槿恵のみになった。権威主義体制が続いた時代はようやく過去のものとなり、韓国の人々はこれから彼ら自身の現代史に関わる「歴史認識」を再構成することになるのだろう。全斗煥への厳しい評価は、当然ながら今日の保守派の「アイコン」としての役割を果たす朴正熙の評価にも、やがて影響を与える。

その議論は、来年3月に予定されている大統領選挙にも一定の影響を及ぼすことになりそうだ。

20250204issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月4日号(1月28日発売)は「トランプ革命」特集。大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で、世界はこう変わる


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

12月住宅着工戸数は前年比マイナス2.5%、8カ月

ビジネス

みずほ証の10ー12月期、純利益は4.4倍 債券や

ビジネス

アングル:中銀デジタル通貨、トランプ氏禁止令で中国

ビジネス

日本製鉄、山陽特殊製鋼を完全子会社に 1株2750
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中