最新記事
医療

「バイアグラの服用者はアルツハイマー病の発症リスクが69%低い」との研究結果

2021年12月14日(火)19時00分
松岡由希子

「バイアグラ」がアルツハイマー病の予防や治療に役立つ可能性がある REUTERS/Mark Blinch

<勃起不全治療薬「バイアグラ」がアルツハイマー病の予防や治療に役立つ可能性があることが明らかとなった>

勃起不全治療薬「バイアグラ」や肺動脈性高血圧治療薬「レバチオ」の商品名でも知られる治療薬「シルデナフィル」がアルツハイマー病の予防や治療に役立つ可能性があることが明らかとなった。一連の研究成果は、2021年12月6日、学術雑誌「ネイチャー・エイジング」で発表されている。

ベータアミロイドとタウタンパクの両方を標的とするものを探した

アルツハイマー病は、脳内で産生されるベータアミロイドとタウタンパクが関与していると考えられている。

ベータアミロイドとタウタンパクが脳内に蓄積すると、大脳皮質の神経細胞周辺の基質にアミロイド線維が集積する「アミロイド斑」やリン酸化されたタウタンパクが神経細胞内に蓄積する「神経原線維変化」といったアルツハイマー病と関連する特徴的な病理学的変化がみられる。最近の研究結果では、ベータアミロイドとタウタンパクの相互作用のほうが、いずれか一方よりも、アルツハイマー病に寄与することが示されている。

米クリーブランド・クリニックの研究チームは、「ベータアミロイドとタウタンパクの中間表現型が交差する分子ネットワークを標的とした薬剤が、アルツハイマー病の治療薬として有望なのではないか」との仮説のもと、アルツハイマー病の発症を左右する可能性のある遺伝的要因を演算手法によってマッピングし、アメリカ食品医薬品局(FDA)がすでに承認している1600以上の医薬品からベータアミロイドとタウタンパクの両方を標的とするものを探した。その結果、最も有望な候補として「シルデナフィル」が導き出された。

アルツハイマー病を発症する可能性が69%低かった

研究チームは、米国の患者723万人の医療費請求データをもとに「シルデナフィル」の服用者と非服用者を比較し、「シルデナフィル」とアルツハイマー病の発症との関係を調べた。これによると、「シルデナフィル」の服用者は追跡調査から6年後にアルツハイマー病を発症する可能性が69%低かった。

「シルデナフィル」を他の医薬品と比較すると、高血圧治療薬「ロサルタン」に比べて55%、糖尿病治療薬「メトホルミン」に比べて63%、血管拡張剤「ジルチアゼム」に比べて65%、血糖降下剤「グリメピリド」に比べて64%、アルツハイマー病の発症率を減少させたという。

また、アルツハイマー病のリスクと関連する合併症である冠動脈疾患、高血圧、2型糖尿病の併発の有無にかかわらず、「シルデナフィル」の服用がアルツハイマー病の発症リスクを下げることもわかった。

「シルデナフィル」が脳細胞の成長を促進

さらに研究チームは「シルデナフィル」のアルツハイマー病への効果を解明するべく、幹細胞を用いてアルツハイマー病患者由来の脳細胞モデルを作製した。このモデルでは、「シルデナフィル」が脳細胞の成長を促進し、タウタンパクの過剰リン酸化を減少させることが示された。

一連の研究結果は、「シルデナフィル」の服用とアルツハイマー病の発症率の低下との相関が認められたにすぎない。研究チームでは、今後、臨床試験などを通じてその因果関係を究明し、「シルデナフィル」のアルツハイマー病患者への臨床的効果を立証する方針だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中