最新記事

韓国

韓国で「日帝残滓の清算」が唱えられるなか、伊藤博文直筆の礎石が保存

2021年11月24日(水)16時46分
佐々木和義

韓国の貨幣博物館の「定礎」の文字が伊藤博文の直筆で問題に 撮影:佐々木和義

<日帝残滓の清算が唱えられる韓国で、韓国銀行旧本館に刻まれた伊藤博文直筆の礎石が保存されることになり、案内板が設置された一方で、保存か撤去か、議論が進んでいる建物もある...... >

韓国の与党・共に民主党やソウル市が日本統治時代の文物であるいわゆる日帝残滓の清算を唱えるなか、保存が決まったものがある

統治時代、日本人居住区だった忠武路や明洞と周辺では、旧ソウル駅、ソウル図書館、ソウル市議会議事堂、新世界百貨店本店といった公共施設や多くの商店や住宅が当時の面影を残している。

韓国銀行旧本館の塀に刻まれた伊藤博文直筆の礎石が保存されることになり、案内板が設置された一方で、保存か撤去か、議論が進んでいる建物もある。

中央銀行の伊藤博文の直筆の「礎石」

2020年10月21日、韓国文化財庁が貨幣博物館の礎石に刻まれている「定礎」の文字が伊藤博文の直筆と確認されたと発表すると、撤去を求める声が広がった。

貨幣博物館は日本銀行などを手掛けた辰野金吾の設計で、1907年、第一銀行(現・みずほ銀行)京城支店として着工。1911年の朝鮮銀行法の施行に伴い、1912年、朝鮮銀行として竣工し、戦後は1987年まで韓国銀行本館として使用された。

貨幣博物館の礎石に刻まれた「定礎」の文字は伊藤博文の直筆と推定されていたが、作成者の名前が消されていたことから、確証が得られていなかった。

与党議員の指摘を受けた文化財庁が行なった調査で、伊藤博文の直筆だったことが確認された。初代韓国統監を努めた伊藤博文は韓国では朝鮮半島を侵略した元凶だと考えられている。市民団体が撤去を求めて、なかには歩道に移設して踏みつけようという人たちまで現れた。

文化財庁は、貨幣博物館は文化財に指定されていることから保存が望ましいという見解を示しながらも建物の所有者である韓国銀行やパブリック・コメントを参照して判断することにした。

韓国銀行が「保存して案内板を設置」「石材で覆う」「撤去して展示」の3つの案を提示し、文化財庁は同年12月、アンケート調査を実施した。撤去すべきという回答は47.3%、保存するべきという回答は52.7%と拮抗したが、文化財庁は21年5月25日、保存することを決め、9月15日に案内板を設置した。

宗廟に「昭和」の文字

今年10月、宗廟の塀に刻まれている「昭和八年三月改築」の文字を保存して案内文を設置することが決まった。宗廟は1395年の完成で、文禄・慶長の役で破壊された後、1608年に再建された朝鮮歴代国王の位牌を安置している祠堂で、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。

「昭和八年三月改築」の文字は、日本人観光客の間で話題になり、宗廟を訪れる日本人の撮影スポットになっていた。2019年に文化財庁が調査を実施し、干支が刻まれた礎石73個と昭和年号が刻まれている礎石9個を発見した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中